『異世界に学ぶ新魔術~前世の記憶から発案した魔術式とエッセイ~』 魔術書から覗き見る異世界生活の万華鏡(安佐ゆう)

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安佐ゆうさんの作品、『異世界に学ぶ新魔術~前世の記憶から発案した魔術式とエッセイ~』 をレビューします。

作品の概要とおすすめポイントはこちら!

  • 異世界転移した日本人が書き記した魔術書を読み進める形式。現代知識を応用した様々な魔法の紹介を通して、異世界での生活の様子も垣間見ることができる。
  • オリジナリティあふれる作品。よく作り込まれた世界観を、魔法を軸として様々な角度から覗き見できるのが楽しい。完結済み作品。

 

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魔術書を読みつつ異世界生活を味わう心憎い趣向

安佐ゆうさんが「小説家になろう」、「カクヨム」にて掲載されている作品です。20年8月に投稿をスタートされて、10月に既に完結済み。文字数およそ8.5万字と中編でまとめられた小説です。

「魔術書」を読み進んでいく、というスタイルが新鮮な作品です。異世界転生した日本人が、現代科学を活用した新機軸の魔法の数々を紹介しているという設定の「魔術書」。フリーズドライ花火アイスクリームなどなど、料理から娯楽まで幅広い技術が魔法によって異世界に再現された様子を楽しむことができます。

さらに面白いのは、転生者であり魔術書筆者のクレイさんの異世界での日常生活の様子が、魔法紹介に絡めてエッセイ風に綴られていること。一貫したストーリーではなくて様々な出来事が断片的に描かれる形式ですが、これがまた異世界生活を覗き見している感じがして非常に面白い趣向となっています。

しっかりした世界観を作られた上で、独創的な切り口でまとめ上げられた、作者さんのセンスに脱帽の珠玉の一作です。

完結済みであり、ボリュームも8.5万字と手軽に読める分量ですので、本稿を読んで興味を持たれた方やテンプレとは一味違った作品を読んでみたい方には、ぜひご一読をおすすめします。

  • 投稿サイト:「小説家になろう」、「カクヨム」
  • 20年8月投稿開始、20年10月完結
  • 完結済み作品。約8.5万字、中編小説。

おすすめ度

完結時

★★★★(星4つ、オススメ!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

諸君は前世の記憶というものを信じるだろうか?

私は信じていなかった。少なくとも子供の頃は。

けれどある日、ふと思い出す。私がかつて、生まれるよりもずっと前に異世界で別人として生きていた時の記憶を。

私はニホンという国で、サラリーマンという仕事をしていた。そこはなんと、魔術のない世界だったのだ。

これを読む諸君は、魔術のない世界があるなど到底信じられないだろう。

だが信じなくてもかまわない。

私がニホンでの記憶をもとに発案した新魔術は確かにここにあるのだから。

なおこの魔術書はこの世界でのみ使用でき、ニホンでは使用できないことを念のため記載しておく。

―― 魔術師 クレイドル・ハングマーサ 著 ――

「小説家になろう」本作ページより引用

著作権を活用したオンデマンド魔術で大儲け

本作のキーとなる魔法が「著作権契約魔術」です。

こちらの世界では魔方陣のような「魔術式」とよばれる紋様に魔力を通すことで魔法が使うことができるため、いわばノウハウの固まりである魔術式が描かれている魔術書は非常に高価なものです。

これを解決したのが主人公クレイの開発した「著作権契約魔術」。これを組み込んだ魔術式が発動される毎にクレイに少額のお金が入ってくる仕組みとなっています。

この著作権魔術のおかげで、多数の魔術式を書き連ねた魔術書を格安で販売することができたと、クレイは以下のように自画自賛しています。

諸君は使いたい魔術式を使いたい回数だけ使用して、ほんのわずかなクレジットを払い最新の快適な魔術を手に入れることができるのだ。

何と素晴らしい発明だろう! 諸君はもう、大切な財産をはたいて高価な魔術書を買う必要はないのだ。

いやー、現代人さすがあざとい(笑)

魔法の紹介のたびに、「これだけ素晴らしい魔術が1回わずか10Gで!」とか、「少し高いが何度も使えるからお得」とか、クレイのセールストークが入るのが本作のお決まり展開になっています。

異世界定番の「ギルドカードに謎技術で入金」の設定を上手く活用しており、ほんと大好きな展開です。そのうち、サブスクサービスあたりを始めて更にがっつり儲けるのでしょうか。

 

世界観の作り込みが魅力

本作のメインは魔法の紹介であり、異世界での生活の様子はエッセイとして断片的に触れられているだけにもかかわらず、世界観の細部まで作り込まれているのが素敵な作品です。

自分が特に気に入っているのが魔術式を描き込む素材に関する話ですね。「魔物の皮は魔力を裏側に通さないから、魔術書の素材として使用すると開いたページの魔法だけを発動できる」とか、「魔術式を描き込んだ素材は発動した魔法の反動を受けるので、使用後に消したい魔術式は紙に書くとよい」などなど、科学屋としてもビビッとくる設定の数々が、小説のあちこちに散りばめられています。

話中で膨らまされることなく、さらっと触れられるだけの内容も非常に多いのですが、その余力というか「まだまだ色々あるんだぜ」感によって、広大な異世界を覗き見しているような感覚となるのがとっても楽しいです。やっぱり懐の広さって大事ですよね!

そうそう、中型の魔獣として「カピバー」が作中にて紹介されていました。きっとカピバラ系のはず。本ブログ著者と同名で嬉しかったので触れさせていただきます。

 

魔法販売のセールストークを楽しみつつ、よく練られた世界観に浸ることのできる素敵な作品です。

中編の丁度よいボリュームで完結されている点もおすすめポイント!

 

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