『聖女に追放された転生公爵は、辺境でのんびりと畑を耕すつもりだった』 科学と魔法の融合で辺境で街づくりに挑む

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ぎゅっと要約

  • 公爵の座を追われた転生者の主人公が、その知識と仲間たちの力で辺境の地を開拓していくお話
  • 科学に魔法を組み合わせた技術発展ものを読みたい人、わいわい楽しげな雰囲気の領地発展ものが好きな人におすすめ
  • 連載中、51話終了時点でおおよそ小説1冊弱のボリューム

科学と魔法のハイブリッドでの技術開発に特徴あり

うみさんが「カクヨム」をはじめ各オンライン小説投稿サイトにて連載中の作品です。正式な小説タイトルは『聖女に追放された転生公爵は、辺境でのんびりと畑を耕すつもりだった~来るなというのに領民が沢山来るから内政無双をすることになってしまった件。はやく休ませて、頼む~』となっております。先行での投稿は「小説家になろう」にされているようですね。2020年4月後半に投稿が開始された新しめの作品です。

作者のうみさんは過去数年で50作品以上を投稿されており非常に筆達者です。「カクヨム」の小説紹介によると本作は書籍化計画も進行中とのことで、今後がとても楽しみな作品となっています。

さて、こちらの物語ですが、転生者である公爵が辺境に追放されたことから、前世の科学知識や転生で得た植物鑑定スキル、更には仲間たちの魔法などを駆使して街づくりを進める領地発展系のストーリーとなっています。この説明だけでは属性を詰め込みすぎのようにも感じますが、片寄った展開にならないように絶妙に調整されているのが素晴らしいところです。

特に、科学と魔法をうまく組み合わせて技術を進めていくのが自分としてはとても好印象ですね。科学技術をあつかう転生物の小説の中には、技術屋から見ると「そんなの一人でできるわけないじゃん」と感じてしまう展開も多いのですが、本作は魔法の存在を生かすことで現実的(?)なストーリーに仕上がっているように感じました。

世界観や設定からよく練られた領地発展物語であり、雰囲気も「みんなで頑張ろう!」と明るく前向きなことから、誰にもおすすめできる期待の作品と思います!

オススメ度とおすすめしたい人

おすすめ度(133話時点)

★★★★★(星5つ、名作!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

おすすめしたい人

ストーリーのしっかりした領地発展ものが読みたい人、内政系や技術発展系のお話に惹かれる人、現代科学と魔法の融合と聞くとたまらない技術畑の人、主人公ヨシュアのあふれ出るカリスマを崇拝したい人

あらすじ

主人公ヨシュアはルーデル公国の公爵として転生し、その知識をもって苦境の公国を立て直すことに成功した。ところがある日、聖女から神託として国外への追放を突如宣告されてしまう。ヨシュアの功績と人柄を考えて周囲は驚き憤るものの、ヨシュア本人は「これでやっとのんびり暮らせる」とまんざらでもないのであった。

お付きの執事とメイドのみを共として辺境の地カンバーランドへと到着したヨシュア。これから始まるスローライフに心躍らせる最中、ヨシュアを慕う公国の民たちが彼を追ってきているに気づく。しかしここは不毛の辺境、次々と到着する民たちを飢えさせないためには食料を確保しなければならない。食料はヨシュアの「植物鑑定」のギフトで何とかするにしても、住む場所も必要となるし、そのためには資材も確保しないと…

かくして辺境の地でのヨシュアの街づくりがはじまった。目標は3年で街を完成させて、その後は引退してのんびり暮らすこと。果たしてヨシュアが枕を高くして安眠できる日はやってくるのだろうか。

主な登場人物

  • ヨシュア
    転生者の元ルーデル公国公爵。前世でブラックサラリーマンだった反動で転生後はのんびり過ごすつもりだったが、周囲が許してくれない苦労人。無意識に溢れ出ているカリスマがきっといけない。科学の知識を生かしつつ、魔法も活用して現代の道具を再現しようとする工学屋魂にも溢れる人。
  • ルンベルク
    ヨシュアをサポートする執事。付き人としてカンバーランドに同行する。その実は凄腕の公国の元騎士で、ヨシュアを守る盾としてはたらく。付き人として同行したメイドのエリーとアルル、庭師のバルトロもみんな凄腕だったりする。全員がヨシュアに心酔しているのは溢れ出るカリスマのなせる業。
  • セコイア
    狐耳の魔法使い。少女の見た目だが実年齢はヨシュアよりずっと上らしい。ヨシュアが公爵の頃に知り合い、その科学の知識に大いに非常に興味を持ち、一緒に色々と実験もしていた。ヨシュアを追って辺境の地にやってくる。

領地発展を滞りなくすすめるための仕掛け

領地発展の内政もののお話、人気ですよね。キーとなる現代知識は科学だったり経済だったり医学だったりと色々ですが、中世のファンタジー世界が転生者の知識で大きく発展していくのは読んでいてとても面白いものです。

この転生での領地発展ですが、違和感を与えずにストーリーを発展させるのは結構難しいと感じます。内政や技術革新を進めていく上では、お金や地位、それに多くの仲間が必要になります。はじめの2つは転生先の人物を偉い人にしておくことで何とかなりますが、3つ目の仲間についてはそうはいきません。

考えてもみてください。ある日突然知り合いが、「これからは科学の時代だ、マッドサイエンティストだ!」とか言い出しても絶対についていかないですよね。自分と行動を共にしてくれる仲間というのは様々なイベントの結果得られるもので、転生してぽっと生えてくるものではないのです。

小説の面から考えると、仲間づくりの過程に重みを置くと本題の領地発展になかなか入れず、詳細を端折ってしまうと主人公とのつながりに重みが感じられなくなってしまうという、痛しかゆしな課題です。周囲を巻き込まざるを得ないような圧倒的なチートスキルを与えてしまうのも良く使われる手だと思いますが、これだとスキルが主役になってしまって、領地や技術の発展にはスポットを当てられないのが大きな欠点です。

この難しい課題を、「転生して公爵として国を立て直したところを追放された」という設定とすることで一気に解決したのが本作の素晴らしいところだと思います。カリスマ公爵として活躍していたことから付き人をはじめとする様々な技能をもった強力な仲間たちが既にいることは自然ですし、慕って集まってくれた多数の領民たちを描くことで街を大きく発展させる展開にも持っていくことができます。うーん、作者さん天才か…

この仕掛けのおかげで、物語の冒頭から街づくりに没頭することができます!

科学と魔法の融合による健全な技術発展

さてさて、本作は領地発展もののなかでも「科学」を活用していくストーリーです。

この手の科学を異世界に持ち込むお話に対して技術屋として物申したいのは、たった1人の人間、しかもWeb小説の主人公にありがちな一介のサラリーマンが転生したところで、その科学の知識は限られているということです。自分は理系の院をでて研究畑で仕事をしていますが、それでも専門分野以外の知識って高校で習ったレベルがいいところなんですよね。なので、やれ銃だ、エンジンだ、飛行機だと、1人の人間の知識では作るのが不可能な工業製品を次々と量産していくお話を読むと、ちょっとどうかなぁと感じてしまうのです。

本作では、このあたりのバランスが上手くとられていることも魅力です。ヨシュアは、水車やモルタルや電球といった個人の知識で何とかなりそうなものは作りますが、自分の範疇を超えるようなものについては魔法を組み合わせて対処しようとします。ここでも、魔法使いのセコイアが旧知の友であるという公爵時代の設定が役に立っていますね。「雷を魔力に変換できないか」という下りでのヨシュアとセコイアの掛け合いは大変面白く読ませていただきました。

身では難しい技術は魔法を加えることで無理なく解決し、さらにその魔法の仕組みも科学的に探っていこうという、技術屋も納得の展開です

ヨシュアが安眠できる日はやってくるのか

スローライフを夢見て辺境にやってきたのにも関わらず、ヨシュアは街づくりの忙しさに追われ続けており、徹夜続きで椅子や床で寝落ちする毎日を送っています。日本人の性なのか、技術屋としての矜持なのか、はたまた染みついた社畜魂なのか。安眠できる日はまだまだ遠そうです。

このお話のもう一つの推しポイントとして、登場する人物がみな楽しそうに生き生きと描かれていることがあります。公国では聖女によって重要人物であるヨシュアが追放された結果、少しずつ困った状態になりつつあることが幕間で書かれており、これから何らかの展開が待っていると思います。「追放」といえば「ざまぁ」がネット小説の符丁になっていますが、本作ではヨシュアが聖女や公国も含めた全員を幸せな方向に導いていってくれるのではないかと期待しています!

  

領地発展ものとして出色の作品です。みんなで楽しく領地を発展させていくストーリーが好きな人はもちろん、しっかりした知識に基づいた技術発展ものに興味のある人にもおすすめします!

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