『聖女様に醜い神様との結婚を押し付けられました』 八百万の神々がおわす世界で神と人の在り方を考える(村川咲)

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村川咲さんの作品、『聖女様に醜い神様との結婚を押し付けられました』 をレビューします。

作品の概要とおすすめポイントはこちら!

  • 無能神とよばれる醜い神様に聖女として仕えることになった主人公エレノアが、様々な出来事を通して神々と人間との関係を少しずつ変えていく恋愛・ヒューマンドラマ。
  • 心理描写が非常に素晴らしい作品。人間に半ば興味を失った神様たちと、心に様々な思いを抱える人々の在り方の違い、そしてエレノアが人間らしさを抱えながら架け橋となっていく展開が深い。

 

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キャラクター描写の瑞々しさが魅力のヒューマン(+神様)ドラマ

村川咲さんが「カクヨム」にて連載中の作品です。20年7月に掲載をスタートされて、21年2月現在での文字数は約23万字と読み応え十分。作者さんは別名義の赤村咲さんとして、『妹ばかり可愛がられた伯爵令嬢、妹の身代わりにされ残虐非道な冷血公爵の嫁となる』を書籍化されている実績もお持ちの作家さんです。

本作の舞台は神々が人間とともに暮らす世界。ギリシャ神話や日本神話のような八百万の神々が現実におわす世界ですね。神々は神殿で世話係として選ばれた聖女たちと共に暮らしています。

主人公エノレアは幼馴染みの聖女アマルダの代役として聖女となるのですが、担当するのは無能神と呼ばれ不定形スライム状の醜い神様であるクレイル。断ることもできずに、後ろ向きな気持ち一杯で聖女としての生活をスタートするのですが…

神様たちと人間たちの関係や心理描写を中心としたヒューマン(+神様)ドラマ小説です。自分は普段あまり読まないジャンルなのですが、エノレアの活き活きとしつつも弱さも抱える人間らしさ、自己中心な人間に冷めた神様たち、そして懸案となる聖女アマルダと、キャラクター描写の瑞々しさに引き込まれて一気読みしてしましました。

神様と人間の恋愛は昔からのテーマですが、エノレアとクレイルの関係のみをふわふわと描くのではなくて、神様たちと人間たちの関係人間の弱さや悪意といった背景含めてしっかりと設計されている点が素晴らしいです。

皆さんにぜひ手に取ってもらいたい作品です!

  • 投稿サイト:「カクヨム」
  • 20年7月投稿開始、連載中
  • 21年2月時点にて約23万字、小説およそ2冊分のボリューム。

おすすめ度

5章20話時点(2021年2月)

★★★★★(星5つ、名作!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

「ごめんね、エレノアちゃん。悪気があるわけじゃないのよ」

幼馴染みの聖女アマルダは、そう言って私に『無能神』と呼ばれる醜い神様との結婚を押し付けた。

そのくせ、アマルダ本人は最高神と新たに結婚を決め、幸せいっぱい。

一方の私は、元々の婚約も破棄されたうえ、神殿の隅に追いやられ、醜い無能神の相手をしながらひっそり生きていく羽目に。

……のはずだけど、この神様、ぜんぜん『無能』じゃないですよね?

それになぜか、他の神々がみんなこの神様を敬っているみたいなんですけど……?

「カクヨム」本作ページより引用

神様と人間が一緒に暮らすということ

本作の世界には神が現実に存在し、一部の神様は神殿で暮らしています。光や風、植物といった自然や、戦のような事象を象徴する様々な神様たちがいますので、まさにギリシャ神話や日本神話のような多神教ですね。感情を持ち人間的な一面を持つところも一致します。

ただし、多くの神様たちは人間の愚かさに失望して姿を隠してしまっており、神殿に人の姿で暮らす神様はとても少なくなっています。人間の側に立ってくれている神様たちも、人の生み出す穢れを引き受けすぎたせいで神としての力の多くを失ってしまっている有様。神と人間の共存は破綻寸前の状態なのでした。

この状態をよく表している一節が刺さったので紹介させて下さい。腐敗した神殿に対して何故罰を与えないかとエレノアに問われた、ある神様の返答です。

「どうして俺が、人間のためにそんなことをしてやらないといけないんだ」

「『罰』は人を正すための行為だ。昔ならともかく、今の連中のためになにかしてやる気はない。――もう興味がないんだよ、単純に」

まさに「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心」ですね。エレノアに対してフレンドリーに接する神様の言葉だけにぐっときました。常に負の感情を生み出しながら足掻きつつ生きる人間と、一段高い精神世界に生きる神では根本的に在り方が異なることがはっきり示されています。

神様との恋愛を題材にしたネット小説は数多くありますが、神側の精神性が人間と変わらないような作品も目立つ中、本作のどっしりした神様観はとても魅力的に感じます。

 

見事な心理描写に引き込まれる

登場するキャラクターの心理描写が非常に素晴らしい作品です。

まず主人公エレノア。テンプレ通りの元気印でぐいぐい進むポジティブ少女ですが、それだけではなくて心の奥には人間らしい弱さも抱えている点がとても良いです。ストーリー途中でキャラの見え方がすっかり変わり、思わず序盤を読み返してしまいました。

ヒーローたるクレイル様もとても素敵なキャラをしています。心はエレノアに惹かれていることを自覚しつつも、人間への諦観と神としての在り方に囚われている様子がよく描かれています。スライム形態が精神的にもクッションとなっている点も巧みな設計だと思います。

そして幼馴染の聖女アマルダ。ストーリーが進むごとに全貌が見えてくるこの子の凄さは、ぜひ小説を読んで味わってみてほしいです。これは神か物の怪の領域。こんなキャラを創り出すことのできる作者さんに脱帽です。

他にも魅力的なキャラが多数登場し、ヒューマンドラマ小説が好きな方にはたまらない内容だと思います。ぜひ多くの方に知っていただきたい作品、おすすめです!

 

神様と人間、エレノアとクレイルの関係がどのように展開していくのか目が離せません。応援しています!

ちなみに、個人的な一押しキャラは、ハイスペックなのにポンコツなリディアーヌ様です。

  

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