『家つくりスキルで異世界を生き延びろ』 等身大の少女の頑張り物語(小鳥屋エム)

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感想とおすすめポイントまとめ

  • 家つくりのスキルをもった転生者の少女が、周囲に支えられつつチート無しで異世界を生き抜くがんばり物語
  • 主題の「家」が少女によっていかに大事なものか背景を交えて描き込まれている点に引き込まれる。「家つくり」スキルの設定も秀逸。
  • スキルチート無しの頑張り物語が好きな人、英雄ではない等身大の少女の冒険譚が読みたい人におすすめ
  • 連載中、第86話終了時点でおおよそ小説1冊強のボリューム、2020年5月に書籍化!

普通の少女が持ち家を目指して頑張るお話

「カクヨム」において小鳥屋エムさんが連載中の作品です。2019年に連載が開始された作品で、今年5月には書籍化もされました。小鳥屋エムさんと言えば、書籍&コミックが絶賛販売中の『魔法使いで引きこもり?』シリーズでも有名です。

本作『家つくりスキルで異世界を生き延びろ』は、等身大の少女が苦しみながらも周囲にも支えられて、自分の家を目指して頑張るお話です。主人公クリスの持つ「家つくり」スキルは、その名の通りに家つくりに補正を得るものでチート要素は全くありません。ありがちな「異空間の家をスキルで増強して無双だぜ」的な展開は皆無です。自分の家を作る資材を揃えるため、クリスはギルドの依頼を受けたり、内職を頑張ったりしながら自力でお金を稼いでいきます。

この本作のテーマでもある「家」が、クリスの価値観に深く根差した特別なものとして書き込まれている点がとても魅力的に感じられました。クリスが前世でも現世でも求め続けた、心安らげる自分だけのお城、「家」。「家つくり」のスキルを得て、様々なトラブルに見舞われつつも少しずつ自らの手で作り上げていく過程は必見です。

昨年4月の連載開始から最近は週1ペースでの更新を着実に続けられており、今後の展開が楽しみな作品です。絵になる場面が多く出てきますので、書籍化に続いてコミカライズも期待できますね!

オススメ度とおすすめしたい人

おすすめ度(86話時点)

★★★★(星4つ、オススメ!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

おすすめしたい人

普通の少女がチート無しでがんばる姿を見たい人、物つくりスキル系のお話が好きな人、独特のファンタジー世界での冒険に興味のある人、我が家でのんびりすることに幸せを感じる人

あらすじ

クリスは安住の地を求めた長い旅路の果てに迷宮都市ガレルに辿り着く。ガレルは誰でも受け入れる迷宮都市。ところが家を建てる土地をもとめて役所に向かったクリスを待っていたのは、この国の民でなければ家は持てないという残酷な事実であった。

この世界ではスキルが人生を左右する。クリスは転生者だが「家つくり」という珍しいスキルを1つもっているだけ。少なくとも3個のスキルを持つことが普通であり、ましてや転生者は上級スキルを複数持つこともあることを考えると全く恵まれていない。

それでもクリスは家を持つ夢をあきらめない。そうだ、家が無理なら、まずは馬車からはじめよう。前世のトレーラーハウスだと思えばいいじゃないか。幸せで安らげる我が家を求めて、冒険者クリスの等身大の頑張り物語が始まるのであった。

主な登場人物

  • クリス
    本作の主人公。前世の記憶を持つ転生者。「家つくり」のスキルを持ち、自らの家を完成させることに情熱を注ぐ。ドワーフの血を引いているためか、13歳にも関わらず見た目は小さな女の子。旅立つ前は大魔女様の手伝いをしており、魔法を使うための紋様紙を自力で書き上げる特技を持つ。
  • ペル
    クリスと一緒に旅をする重種の馬。竜馬の血をついでいることから大きくて力持ち。病気で苦しんでいたところをクリスの紋様紙に助け出された過去を持つ。小さいクリスのことを自分の子供のように大事に思っている。
  • イサ
    見た目が小鳥の妖精。森で魔物に襲われているところをクリスに助けられて懐く。「ピィ」としか言わないが、クリスにはちゃんと意図が伝わっているようだ。イサとの繋がりを縁として、クリスは様々な精霊と知り合うことになる。

等身大の少女クリスと無双組の対比

クリスは転生者ですが持っているスキルは「家つくり」だけ。家を造るときに補正が受けられるスキルですが、無から有を造り出せるわけではないので、頑張ってお金を稼いで材料を集める必要があります。

その頑張る過程のクリスの様子を、読者と同じ目線に立って描いている点にとても好感が持てます。内職の紋様紙の売れ筋の読みがあたって喜ぶクリス、依頼の仕事で手際をほめられて嬉しいクリス、そして完成した馬車がトラブルに巻き込まれて悲嘆に暮れるクリス。作者さんの心情描写が上手なことも相まってまるで自分が体験しているかのように感じつつグイグイ物語に引き込まれます。

ストーリーの中で、テンプレ型の無双主人公たちを「二ホン組」として登場させているのも面白い試みです。強力なスキルを持つことから国から大事にされており、家を建てることすら許されないクリスとは対照的な存在です。ただし、強すぎる力を思慮無しに振るったり、ニホン組以外の人間をNPC扱いしたりと、転生先の世界なんか関係無しの傍若無人のふるまいであり、人々との繋がりの中で生きていくクリスのアンチテーゼとして描かれています。

せっかくの異世界もの、世界に寄り添って生きるお話を読みたいですよね。

クリスにとって大事な存在である「家」

クリスにとって「家」は、転生時にスキルとして表れてしまうほどに特別なものです。詳細は本作を読んで頂きたいのですが、前世の日本での人生では望むも届かず、現世においても心安らぐ居場所を得られなかったクリス。物語はそんなクリスの家つくりを中心に据えて展開します。

クリスの家に対する思いは、夜の眠りにつく様子として上手に描かれています。ガレル到着直後の冒頭シーンでは馬小屋で不安な思いを抱えながらペルの傍らで寝り、襲撃を受けた後は心配な気持ちを抱えながら宿屋で眠りについていたのに対して、家が完成を迎えてからは楽しく幸せな気持ちで眠りにつくクリスを遂に見ることができます。読んでいるこちらまで幸せを感じるシーンですね。

転生物では強力だったりユニークだったりするスキルを獲得することがお決まりの展開ですが、そのスキルをいかに主人公と結び付けて活かすことができるかが名作と凡百の作品の違いではないかと思います。主役の存在がスキルに食われてしまっては、出オチで終了でしょう。

その点でも、本作の「家つくり」はクリスの思いと深く繋がった素晴らしいスキルだと思います。「家はね、一番安らげる場所じゃなきゃダメなの。家は大事なんだよ」

 

等身大の少女であるクリスの頑張りを一緒に応援したくなる素敵な作品です。チート無しの頑張り物語が好きな人はもちろん、作者さんの描き出す瑞々しい異世界の雰囲気を楽しみたい人にもおすすめの一作です。

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