楽山さんの作品、『俺の召喚獣、死んでる』 をレビューします。
作品の概要とおすすめポイントはこちら!
- 相棒の召喚獣として伝説の魔獣の死体を呼び出してしまった主人公が、その力を蘇らせる方法を探して奮闘するお話
- 神話からはじまる壮大な世界観を小説として綺麗にまとめ上げた珠玉の作品。主人公と仲間たちの人物描写も素晴らしく、読了後に感じる余韻がたまらない。
タイトルに良い意味で騙される重厚ファンタジー小説
楽山さんが「カクヨム」にて掲載されている小説です。21年1月に投稿を開始されて、1ヵ月あまりで完結しました。ランキング上位に継続して載っていたことから、タイトルを目にされた方も多いのではないでしょうか。
主人公フェイルは召喚術師育成のための学園に通う学生。平民ながらお金を貯めて入学した苦学生です。召喚術師の最初の召喚獣は「片割れ」と呼ばれ、強力な力を持つ相棒となるのですが、フェイルが片割れとして呼び出したのは伝説の魔獣の死体。山ほどの大きさの体躯に強硬な外皮を誇るものの、当然ぴくりとも動く様子は無く… 学園で最も優れた召喚術師を決める召喚祭を目前に控えて、フェイルは相棒の力の片鱗だけでも何とかして蘇らせようと仲間たちと奮闘します。
タイトルからは出オチ系コメディの雰囲気を感じていたのですが、読み始めてすぐに認識を改めました。伝説の魔獣にまつわる神話伝承をはじめ、精霊や魔法の在り方に人間国家の状況などなど、細部に至るまでしっかりと世界観の作り込まれた重厚なファンタジー作品となっています。
作者さんの素晴らしい筆力も魅力です。小説冒頭はいきなり戦闘中の描写からスタートするのですが、その熱いバトル展開を通してフェイルと仲間たちの人となりや、召喚獣がどのような存在なのかといった背景が分かりやすく描き出されていきます。流麗なストーリー展開はネット小説の枠をはみ出ているように感じます。
加えて、これだけ作り込まれた世界観にも関わらず、単行本1冊のボリュームで完結させているのも憎いところですね。締めるところはしっかりと締めつつも、全てを語りきらないことで余韻もしっかりと残しており、小説として満点の終わり方でしょう。
素晴らしいクオリティで綴り上げられたファンタジー小説、ぜひ多くの方に味わっていただきたいです!
おすすめ度
完結時
★★★★★(星5つ、名作!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
あらすじ
魔術師の上級職として召喚術師が存在する異世界。
その交易都市ラダーマークの召喚術師養成学校に通うフェイル・フォナフが喚び出した相棒は、とんでもない化け物だった。
太古の時代に神々を殺し回ったという大魔獣。山脈すらも粘土細工のように軽く握り潰したという超絶巨大な召喚獣。
おいおい、これで学校生活も楽勝じゃん!
あれ? なんで? 動かないんだが? ちょっと待て! こいつ死体じゃねえか! 死んでるじゃねえか!
そう。フェイル・フォナフの相棒となった召喚獣は、伝説の魔獣――の死体――だったのだ。
さあ、どうするフェイル・フォナフ。
うんともすんとも言わない巨大な死体を前に、彼は召喚術師学校のトップに立てるのか?
「カクヨム」本作ページより引用
世界観やストーリー描写の素晴らしさに震える
小説の冒頭は以下の書き出しでスタートします。
瓦礫の中から見上げた空には、美しいものしか存在していなかった。
吸い込まれそうなぐらいの深い青に色付いた虚空、陽光を受けて明暗強く光り輝くちぎれ雲、そして――六枚の白翼を大きく広げた大天使が一人。
こちらは学園での召喚獣バトル中で、相手の召喚獣の大天使の一撃で吹き飛ばされた主人公フェイルの見ている風景なんです。
この場面を起点に、フェイルと一緒に吹き飛ばされた仲間たちとの会話、召喚獣たちの姿形や振舞い、大ピンチをまくるためのフェイルチームの作戦などを通して、本作の世界観や登場人物のキャラクターが自然に語られていきます。これぞ小説というべき見事で綺麗な導入に感動しました。
ネット小説の異世界転生もので定番となった「転生トラック」展開も、完成された様式美としてアリだと思いますが、本作のような目の前に情景が浮かんでくるようなパンチのきいた描写からのスタートはやっぱり乙なものです。
余談ですが、冒頭の書き出しにある通り、「空」の描写が非常に印象に残る作品です。地を這うフェイルの魔獣と、空を翔ける天使や神獣との関係性も感じられるようで深いです。
仲間たちとの熱い信頼関係
主人公のフェイルはいわゆる無双系ではなく、三枚目キャラで軽口を叩きつつも信頼する仲間たちと力を合わせて前に進んでいくタイプです。ジャンプ漫画によくいるタイプの主人公ですね。
この仲間のキャラクター性がとてもしっかりしている点も本作のお薦めポイントです。それぞれに場面に応じた活躍の場があることはもちろんのこと、言動や態度の端々からフェイルと信頼し合っているのが滲み出てくるのが素敵ですね。
特に見せてくれるのが親友のシリル。二枚目で貴族で裕福と、三枚目で平民で苦学生なフェイルとは真逆のキャラとして描かれますが、物語中盤ではフェイルの気持ちを理解しようと努めつつ共に苦悩するシーンが描かれます。この葛藤が大団円に向けた布石ともなっており… 詳細はぜひ小説でご確認下さい。
信頼する仲間たちとの熱い展開に、小説1冊にまとめるのでは勿体ないほどの美麗な世界観、そして優れたストーリー構成に文章力と、手に取って間違いなしの作品です。おすすめです!
終盤の熱すぎるバトル展開を読んでいて、「天元突破グレンラガン」を思い出しました。
完結済みですが、まだまだこの作品の世界に浸りたいです。続編を楽しみにしています!
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