ぎゅっと要約
- 冒険者セスが貴族令嬢の護衛を引き受けたことから、帝国をめぐる陰謀に巻き込まれるお話
- 熱いバトルと魅力的な女性達がぎゅっと詰まった王道ファンタジーが好きな人におすすめ
- Web小説がはじめての方にもぜひ!
- 完結済、小説1冊分のボリューム
これぞ剣と魔法の世界の王道ファンタジー
朝食ダンゴさんが「ノベルアップ+」で公開している作品です。この作者さんの作品紹介は、別の記事の『異世界転移で無双したいっ!』に続いて2作目。完結済みの本作『アルゴノートのおんがえし』もストーリー、文章力とも素晴らしいものでした。重厚なストーリーにも関わらず15万字と小説1冊分にきれいにまとめ上げているのも作者さんの実力のなせる業です。
物語は冒険者のセスが貴族令嬢であるシルキィの旅路の護衛を引き受けるところから始まります。昨今のネット小説のテンプレでもある「異世界転生」とか「スキルチート」とか「悪役令嬢」は一切登場せず、剣と魔法の世界の純ファンタジーに仕上げられています。少し昔の読み切りのライトノベルを読んでいるような気持ちになりました。最近の好ましからざる風潮として、多くの人の注目を引いてランキングを上げるために、いかに奇抜で前例のない設定を作り上げるのかが最重視されがちななかで、このような純ファンタジー作品の存在は貴重だと思います。
Web小説をはじめて読んでみる人や、いわゆるテンプレ展開が苦手な方にもおすすめの作品です。
オススメ度とおすすめしたい人
おすすめ度(完結済み)
★★★★(おすすめ!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
おすすめしたい人
本格的なファンタジー小説の好きな人、あまり時間がないけどWeb小説を楽しみたい人、ネット小説を初めて読む人、剣と魔法の熱い王道バトルが好きな人、プロットのしっかりしたストーリーを求める人
あらすじ
主人公のセスは、この世界で「アルゴノート」と呼ばれる探索者を生業にしている。ある日、組合でくつろいでいたセスは、帝都への旅の護衛を依頼しにきた貴族令嬢のシルキィと出会った。この依頼に興味をもったセス。シルキィの付き人のティアとの立ち合いで実力を認められ、セス、シルキィ、ティアの3人組での旅がはじまることとなった。
アルゴノートには粗暴なものが多いことから貴族からは蔑まれることが多く、シルキィのセスに対する態度も例に漏れないものであった。その一方で、シルキィには「レイブンズストーリー」という過去に実在した剣闘士とヒロインの恋愛小説を好む少女らしい一面もあった。
戦乱の世のため治安は悪く、セスたちは先々でトラブルに巻き込まれつつ帝都を目指す。そんな道中で「レイブンズストーリー」の舞台である町に立ち寄ったことから、ストーリーは大きく動き出すのであった。
主な登場人物
- セス
アルゴノートと呼ばれる探索者であり、自らの仕事に誇りを持っている。ランクこそC級ではあるが、その実力は計り知れない。シルキィの護衛の仕事は報酬面では魅力的でないにも関わらず引き受けた。『だから俺は、お嬢のために命を賭ける』 - シルキィ
帝国ラ・シエラ辺境伯の令嬢。類まれな回復魔法の才能を持ち、帝都の学園に通っている。領内の復興のため資金的な余裕がないことから、帝都の学園への護衛をセス1人に頼ることになる。憧れの人物は「レイブンズストーリー」のレイブン。 - ティア
シルキィの付き人にしてメイドにして友人。剣の実力は帝都の武術大会で上位に入るほど。シルキィとは違い、アルゴノートに対して悪いイメージは持っていない。自らの信念を貫くセスに心を惹かれていく。
小説のあるべき姿を端的に示す良作
ザ・王道ファンタジーです。主人公は剣の達人であり、秘められた過去を抱えていますが、「現代日本からの転生者」は登場しませんし、「作られた世界のシステム」も存在しません。
例えば大手サイトの「小説家になろう」では、いかに高いレベルでまとめられた作品であっても、本作のような作風では奇抜なタイトル群に埋もれてしまってランキングに食い込むのが難しいと思いますが、「ノベルアップ+」のランキング制度では上位に評価されています。オンライン小説サイトごとに特徴があることは、読者が自分の好みに合わせて使い分けができる意味で好ましいことだと思います。
ストーリー構成は素晴らしく、戦闘シーンも熱く書き込まれており、キャラクターも皆魅力的です。いわゆるネット小説らしさが色濃く出ていないこともあり、万人受けする作品に仕上がっていると思います。一方で、ディープなネット小説を愛読家からすると、もう少し作品に独特の「世界観」や「癖」が欲しくなる面もあるかもしれません。
本作あとがきにある「小説を読むということは、主人公の人生から得難い経験を積むのと同義」という言葉には、多くの小説がネットにあふれて誰もが作者となることができる今日だからこそ、強く感銘を受けました。確かに、小説に限らずマンガや映画でも、ただ面白くて引き込まれる作品は数あれども、人生を考えさせられるような余韻をもつ作品にはなかなか出会い難いものです。そんな作品に一つでも多く触れるため、日々ネットの海に潜っているのだと思います。
セスの信念とシルキィの成長の物語
主人公のセスは完成されたキャラクターであり、第1話から最終話に至るまで、常に自身の信念にしたがって行動します。そんなセスの生き様を追体験することが本作のテーマの一つになっています。
一方でヒロインのシルキィは、作中の出来事を経験して人間的に大きく成長し、最後にはセスと肩を並べられるまでになります。はじめのツンツンした様子も悪くないですが、成長して自らの強い意志をもったシルキィは本当に魅力的です。セスは人間として出来すぎているので、未熟な自分としてはシルキィのほうに強く共感を覚えました。
それにしても、朝食ダンゴさんの描く女性は本当に可愛らしいですね。シルキィはもちろん、メイドのティアも、レイブンズストーリーの作者として登場するイザベラも、その生き様が生き生きと鮮やかに描かれています。セスがいつの間にか無意識ハーレム系主人公になっているのも、次作の『異世界無双したいっ!』と同様ですね(笑)
次作『異世界無双したいっ!』と比較してみる
本作は王道ファンタジーとしてまとめているのに対して、朝食ダンゴさんが現在連載中の次作『異世界無双したいっ!』ではネット小説定番の異世界転生を舞台にしていることが特徴です。ただし、安易な転生物で終わらずに、独自の世界観やネット小説のよさも新たに織り込もうとされているところに非常に好意が持てます。
また、次作では主人公の成長に焦点を当てている点も異なります。やはり主人公が一歩ずつ成長していく姿には自分自身を投影しやすく、今後どのような道を切り開いていくのかとてもストーリー展開が楽しみです。
本作についても、セスの過去編として、アルゴノートの誇りと強い信念を確立するに至るまでの成長ストーリーも読んでみたいですね。
いずれにしても、本作『アルゴノートのおんがえし』は万人におすすめできる王道ファンタジーの秀作です。朝食リンゴさんの今後の作品を心から楽しみにしています!