感想とおすすめポイントまとめ
- 仲間に裏切られてアウラルネに転生してしまった少女が、植物ゆえに苦労しつつも生き残りを賭けて頑張るお話
- 植物ならではのハンデを背負いつつ進むサバイバル生活が新しい。戦闘時の独特の文体も、モンスター娘を実感させる面白いアプローチ
- 新境地のモンスター転生ものを読んでみたい人に特におすすめ! 異世界もの好きな人に広くおすすめできる作品
- 連載中、第92話終了時点でおおよそ小説2冊弱のボリューム
アウラルネがきちんと植物モンスターをする独創的なお話
水無瀬さんが「小説家になろう」にて連載中の作品です。副題も含めたタイトルは『植物モンスター娘日記 〜聖女だった私が裏切られた果てにアルラウネに転生してしまったので、これからは光合成しながら静かに植物ライフを過ごします〜』。タイトルからは、「ざまぁ」、「無双」、「スローライフ」の雰囲気も漂ってきますが、本作のメインは「モンスター転生の戦闘もの」です。主人公のアウラルネは弱くはないもののチート無双ではなく、圧倒的強者がひしめく世界での生き残りを目指して頑張ることになります。
特徴は何と言っても主人公がきちんとアウラルネをしていることでしょう。モンスター転生ものの小説の中には、「これ別にスキル持ちの人間でいいんじゃ」と感じる主人公が結構多いです。例えば、奇異の目を多少は向けられつつも人間の街で暮らしていたり、人と普通にコミュニケーションをとっていたりと。対して、本作の主人公のアウラルネは正しく植物モンスターです。根っこがあるからもちろん動けないですし、火事になれば燃えますし、冬になれば寒くて枯れてしまいます。動けないのだから街に出掛けて情報収集なんてことも当然なし。自らの能力と知恵だけを武器に、森の中での生き残りを賭けて戦っていく展開は非常に独創的だと思います。
今年4月の投稿開始から、すでに92話、30万字以上を超えるハイペースが投稿を続けられており、強豪ひしめく「小説家になろう」ランキングでも、各集計期間で二桁順位を達成されています。今後のストーリー展開に注目の作品です!
オススメ度とおすすめしたい人
おすすめ度(86話時点)
★★★★★(星5つ、名作!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
おすすめしたい人
モンスター転生ものが好きな人、植物モンスターを主人公とした独創的な世界観を楽しみたい人、能力と知恵を駆使したバトルものが好きな人、モンスターとモンスターが拳(蔓)で語り合う展開を見てみたい人
あらすじ
魔王討伐の旅の道中、主人公の聖女は突如として仲間から裏切られる。瀕死でアウラルネの前に放置された聖女は、捕食されたアウラルネの体内で消化されないように回復魔法をかけ続け、気が付くと自身がアウラルネになってしまっていた。
アウラルネは女性の上半身と植物の下半身を持つモンスター。地面に根を張った身体では、魔物が闊歩する森から逃げ出すことはできない。身体から零れる蜜はモンスターをおびき寄せる効果があるようだが、モンスターから花粉をつけられて受粉してしまったら枯れてしまうかも…
アウラルネとして生きる必要なものは水と太陽光と栄養。身も心もすっかりアウラルネとなった主人公は、蜜を餌として捕まえた動物や魔物を栄養としつつ、日照りにも雪にもめげずに戦い続ける。迫りくる強大な敵に負けずに、果たして生き残ることができるのだろうか。
主な登場人物
- アウラルネ
本作の主人公。聖女の能力を受け継いで光回復魔法を使うことが出来る。聖女転生前の日本人としての記憶も取り戻したため、植物に関する知識も豊富。摂取した植物の特性を取り込むことができる特性を持つ。周りがモンスターだらけで、会話のできる相手がいないのが悩みどころ。 - 白い鳥
主人公のアウラルネのまわりによく姿を見せる鳥。捕食しようとするも、素早い上に頭が良くてなかなか捕まえられない。アウラルネが困っているときに、ちょっかいを出しているように見えつつも、水や植物をくれているような…? - ペロリスト(蜜大好きモンスターたち)
アウラルネの出す蜜の虜となり、アウラルネをペロペロすることしか考えられなくなってしまったモンスターたち。花粉を媒介する生物(ポリネーター)がペロリストの場合はアウラルネの純潔と命があぶない。アウラルネの蜜は、動物、魔物、人間の種族を問わずに高い中毒性を持つ。
動けないアウラルネに迫りくるペロリスト達
冒頭にも少し書きましたが、数多のモンスター転生ものの中でも名作と言われるものは、主人公のモンスターとしてキャラや立ち位置のオリジナリティーがしっかりとしています。超有名どころの『スライム』、『蜘蛛』、『ドラゴンの卵』を思い浮べてもらえれば、人間の主人公では作り上げることのできない世界観やシチュエーションが作品の魅力となっていることが分かるでしょう。
本作は植物の魔物であるアウラルネに転生することが特徴です。水不足だったり雪が積もったりすると即生命の危機につながるのは、植物ならではの新しいシチュエーション。また、植物だからその場から動けないという縛りも素敵です。ボス級の強敵に遭遇した場合でも、転生ものにありがちな「今は隠れてやり過ごす」パターンが使えないので、「対峙しつつ何とか生き残る方法を探して足掻く」という熱い展開へと自然と持っていくことができます。
また、本作の文章の雰囲気もモンスター転生感を盛り上げることに一役買っています。お話は主人公のアウラルネの一人称で進みますが、あえて美麗な表現を使わずに、アウラルネが考えていることや行動をざっくり淡々と列挙する形で記述しています。『蜘蛛ですが何か』も似た書き方ですよね。淡々とした表現にモンスターを感じられる個人的に好きな表現です。
その一方で、強敵との戦闘シーンでは雰囲気が一変して、アウラルネと敵の命を賭けた「パーティー」として描かれるのが本作の独創的な点です。蜜を求めて迫りくるペロリストたちとの真剣な命のやり取りのシーンですが、ダンスを踊るかのように蔓のムチを浴びせて、紅茶を給仕するかのように毒花粉をふるまい、最終的には全て美味しくいただくアウラルネの様子は正しく魔物であり、モンスター転生ものとしての本作の魅力を押し上げています。何よりも、読んでいるとアウラルネも作者さんもとても楽しそうに感じられるところが素敵ですね!
仲間たちとの絆もモンスター基準
物語の当初の舞台である森にいるのは動物や魔物ばかりで、アウラルネが言葉でコミュニケーションを取れるような相手は出てきません。森での生活を続けるなかでアウラルネにも仲間ができますが、それが蜜を求めて共生関係となったハチと蝶のモンスターの群れというところも、やはり魔物感があふれる感じでよいです。蜜を出すアブラムシを守るアリの関係と同じですよね。
ストーリーは既に92話とかなり進んでいますが、主人公のアウラルネに未だ名前が付けられていない点も徹底しています。モンスターのアウラルネはアウラルネであって、周囲との関係の上でも特に名前を必要としないということなのでしょう。
物語の中盤で得た仲間の力によってアウラルネは住まいの森から旅立ちます。ストーリーに関しては変わらずアウラルネ視点で進みますが、移動ができるようになったことで物語は新しい局面を迎えそうです。アウラルネの行く末はもちろんのこと、聖女を裏切った仲間たちや魔王のその後など、今後の展開がとても楽しみです。ペロリスト達に負けないように、日々研鑽に励むアウラルネが編み出す新戦法にも注目です!
アウラルネが植物系モンスターとして生き抜く様を描いた、モンスター転生ものの期待の新作です! アウラルネと仲間たちが繰り広げる独創的なストーリーはぜひ多くの人に味わってもらいたいです。