『やりなおし貴族の聖人化レベルアップ』 公爵長男が挑む聖人育成ブートキャンプ(八華)

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八華さんの作品、『やりなおし貴族の聖人化レベルアップ』 をレビューします。

作品の概要とおすすめポイントはこちら!

  • 悪魔に魂を売って王国を滅亡させてしまった主人公が、過去に巻き戻って破滅を回避するために人生をやり直すお話
  • 主人公のリトライを補助する「システム」の存在が秀逸。ゲーム仕立てで善行を習慣化させることを起点に、主人公の心境や行動が徐々に変わっていくリアルな描写が見事。物語の展開もダイナミックで◎

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「立場が人をつくる」を実感できる作品

八華さんが「カクヨム」、「アルファポリス」、「ノベルアップ+」で掲載されている小説です。掲載開始は21年3月末と最近ですが、5月初旬の時点での文章量は14万字に達しており、既に読み応え十分となっています。カクヨムにおいては月間ランキングトップを獲得するなど、非常に注目度の高い作品です。

悪魔に魅入られて王国を滅亡させてしまった主人公のセリム、気が付くと14歳のある日に巻き戻っていました。過去と違うのは、目の前に浮かぶ謎のウインドウメッセージ。そのシステム曰く、求道者としてレベルを上げることで悪魔の誘惑を振り払うことができるそうなのですが、現状のレベルはまさかのマイナス51。善行を積むことで経験値が得られることに気づいたセリムは、まずはレベルをプラスにすることを目標に人生を再スタートしますが…

セリムの思考や行動が無意識のうちに求道者へと変わっていく様子が、見事に描き出される点が魅力の作品です。巻き戻しからの人生やり直しは普遍のテーマですが、人間の本質ってそんなに簡単には変われないものです。前世でいくら辛い思いをしていたとしても、生まれ変わって楽に生きられる環境になったら、ぬるま湯につかってしまうはず。なので、巻き戻し後にいきなり別人のような良人格になっている作品には、少し違和感を覚えていました。

本作では、善行によって経験値という対価を得られるシステムに加え、前世の公子とは異なる求道者という立場へとセリムの立ち位置を変えたことによって、セリムの心境や行動の変化をしっかり納得して受け止めることができます。セリムの行動がいつの間にか他者に大きな影響を与えるようになり、まさに聖者へと変化していく様子の描写は見事でした。

ストーリーのテンポも快調であり、要所でダイナミックな展開が挟まれることから飽きさせません。脇も固める登場人物も魅力的であり、さすがランキングトップと納得の作品です!

  • 投稿サイト:「カクヨム」、「アルファポリス」、「ノベルアップ+」
  • 21年3月投稿開始、連載中
  • 21年5月時点にて約14万字、小説およそ1冊分のボリューム。

おすすめ度

88話時点(2021年5月)

★★★★★(星5つ、名作!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

冬のある日、セリムは悪魔の誘惑に負けて魔人化した。

彼は勇者に殺されるまでに、王都の民や貴族を虐殺し、王国に悪魔が押し寄せる引き金を引いてしまった。

セリムの死後、悪魔たちは王都を陥落させ、王国を滅亡させる。

悪魔に囚われ、魂だけになって王国の滅亡を見ていたセリムは、気付けば、なぜか14歳の自分に巻き戻っていた。

目の前に浮かぶのは、透明な板に書かれたメッセージ。

《 あなたは求道者になりました。正しい行いをし、徳を積むことでレベルが上がります 》

強さも権力も持っていた。しかし、それでは足りなかった。自分だけのレベルアップで、破滅の未来を変えていく。

「カクヨム」本作ページより引用

公爵長男としての立場、求道者としての立場

立場は人をつくる」といいます。社長や役員となって見える世界が変わり、振る舞いも自然に変わってくる場合などによく使われますね。

本作では、セリムの立場が前世と変わっている点がポイントです。前世では公爵の長男であり、公爵家としての権威を示すべく、力を誇示してなめられないように生きていました。その結果、セリム本人にも相応の実力があったにも関わらず、より優秀な人材に嫉妬して暴走してしまうことになりました。

巻き戻し後は、世界を悪魔から守る求道者へと立場が変わります。前世では実力を妬んで反目していた勇者も、求道者として見れば世界の破滅を防ぐための重要な味方。公子の立場では作り得なかった様々な人間関係を築き、悪魔に対抗する体制を整えていきます。

まさに一段高い視野に立った結果ですね。セリムの姿形も地位も巻き戻し前と同様であり、大きく変わったのは立場のみです。セリム視点ではシステムにサポートされつつ求道者としての道を淡々と歩んでいるだけにも関わらず、第三者視点では徐々に神格化されていく様は読みごたえがあります。

まさにリーダー育成研修システム

セリムの成長をささえるシステムは、とてもよく出来た仕組みです。

まず分かりやすいのは経験値による成長システム。セリムの最終的な目的は、悪魔に対抗できる実力をつけつつ、頼りになる味方を集めることです。ただ、この壮大な目標を目指して日々がんばり続けることは常人には不可能でしょう。

そこでシステムが提供するのが中目標小目標。中目標としてレベル上げの目標を段階的に示し、小目標として「祈り」と「善行」を行うことで毎日経験値がもらえるデイリークエストが始まります。当初は何をすれば善行になるか戸惑うセリムでしたが、しばらくすると日々の経験値チャンスを逃さないように、いかにして善行を漏れなくこなすかを考えるまでに。ここまでくると、セリムにとっての善行は相手からの見返りや賞賛を求めるための行動ではなく、ただの毎日の反復行動のひとつへ至ります。

いやー、これってもはや聖者ですよね。デイリークエストで経験値を貯めることでメインクエストも着実に進め、セリムは最終目標に耐えうるだけの実力と仲間たちを得ていきます。

大きな目標を達成するためには、月ごと、週ごとといった小さな目標までのブレークダウンが重要であることは、現実の人材育成セミナー等でもよく言われることだと思います。また、やるべき行動を習慣化して無意識に繰り返すことも大切です。ちょっと目的は違いますが、スマホゲームがデイリークエストを設けるのも同じ理由からですね。

システムによる経験値増減の基準に従うことで、セリムの行動や判断基準が求道者らしく変化していく仕組みはよく考えられており、読んでいて面白いです。人類を率いるリーダーとなるべく、育成研修を受けさせられているといったところですね!

 

今までに受けてきた研修を思い出しました。自分もセリムのように一歩一歩がんばらねば…

やり直しもの小説としても出色の完成度であり、読みやすく楽しいです。気になった方はぜひどうぞ!

  

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