三上康明さんの作品、『裏庭ダンジョンで年収120億円』 をレビューします。
作品の概要とおすすめポイントはこちら!
- 裏庭にできたダンジョンで大量の魔結晶を見つけた主人公が、夢の年収120億円生活めざして魔結晶の換金のために奔走するお話
- 現実世界ダンジョンものだが、ダンジョンの探索やバトルではなくて、魔結晶の換金がストーリーの主軸なのが面白い。序盤のブラック企業展開をきちんと回収する点も見事
ダンジョンからはじまるリアルな物語
三上康明さんが「小説家になろう」に投稿された小説です。短期集中連載作品とのことで、21年4月の投稿開始から既に完結済み。作者の三上さんは書籍化、コミカライズを多数抱える人気の作家さんですね。大長編の作品が多い中、本作は13万字程度と気軽に読むことができるボリュームとなっています。
現実世界にダンジョンが生まれた世界、ダンジョンで発掘される魔結晶はエネルギー源となることから高額で取引されていました。ブラック企業に勤める四十路サラリーマンである主人公の月野は、引っ越し先の裏庭で未発見のダンジョンを発見し、その内部で多量の魔結晶をみつけてしまいます。法律でダンジョンは国に接収される決まりですが、「年収120億円」で人生逆転を夢見る月野は、何とか裏庭ダンジョンの存在を隠しつつ魔結晶を売りさばけないかと画策しますが…
現実世界ダンジョンものではありますが、ダンジョン内での無双ではなく、偶然見つけてしまった魔結晶を換金するための現実世界での奮闘が主軸となった作品です。主人公がブラック企業勤務なのもネット小説あるあるですが、本作はブラック企業生活も鮮やかに描かれた上、ストーリー後半できちんと回収に行く展開はオリジナリティばっちりでした。ちなみに、作者さんのブラック社員描写はほんと素晴らしいですね。ああいう部長とか営業とかいっぱいいますよ、うん・・・
完結済みのしっかりと組まれたストーリーを楽しみつつ、月野さんの人間模様をめぐってほっこりした気持ちにもなれる良作です。
激戦のなろう月間ランキング上位にも輝いた作品、気になった方はぜひどうぞ!
おすすめ度
本編完結時点(2021年4月)
★★★(星3つ、良作)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
あらすじ
10年前の隕石の急接近後、まさに「降って湧いた」ようにできたダンジョン。
そこで採掘される魔結晶は、世界のエネルギー事情を一変させた。
電気料金は安くなって、二酸化炭素も出さないからエコ。
魔結晶を採掘する人々は「マイナー」と呼ばれ、高濃度魔結晶はとんでもなく高い値段で買われることから、一攫千金を夢見るマイナーでダンジョンはにぎわった。
中には「異能」なんてものに目覚める人まで出てきたが、それはダンジョンの中でしか使えないので、世界は平和に、そして豊かになった。
そう、あれから10年も経ったのだ。
「すげえ世の中だよな……」
俺が買った、何年も使われていなかった中古の一軒家の裏庭に、ひっそりとたたずんでいたダンジョン。
「全部換金したら、一体いくらになるんだよ……」
そこにあったのは、手つかずの高濃度魔結晶の山だったのだ。
これは俺が、「裏庭ダンジョン」にある魔結晶を、いかにしてひっそりと誰にもバレずに目立たず売りさばくかという物語。
目標は「年収120億円」。
そんな、バカみたいな、だけど切実な目標のおかげで――俺はどん底から立ち直ることができたのだ。
「小説家になろう」本作ページより引用
ダンジョンをモチーフとしつつ人間のサガを描く
新しい世界・モノに不安や恐怖を抱きつつも、そこから得られるかもしれない莫大な利益を夢見て、命知らず達が立ち向かっていく。太古から脈々と受け継がれる人類の歴史の一端でもあります。例えば大航海時代には、香辛料や貴金属での一獲千金を狙って荒くれものたちが世界の海に漕ぎ出しました。
本作を読んだときに、現代ダンジョンものというローファンタジーな世界観にも関わらず強烈なリアルさを感じたのは、ダンジョンはあくまで「未知なるものの」のモチーフであって、それに命を賭けて挑み、新しい人生を切り拓こうとする月野の姿にフォーカスが当たっていたからかもしれません。まるでダンジョンという大海原に、魔結晶という財宝を得るために漕ぎ出したかのように。
たしかにダンジョンも舞台ではあるのですが、バトル描写は淡白であり、スキルやレベルアップの要素も出てきません。ダンジョンは魔結晶を換金するための仕組みであって攻略対象ではないのです。
会社生活をはじめとした現実感あふれる日常パートが厚めに描かれている点も、本作のもつ独特な雰囲気を出すことに一役買っていると感じました。
一味違った現実世界ダンジョンものを楽しみたい方におすすめの作品です。
リアル感にあふれるブラック企業とざまあを味わいたい方もぜひどうぞ!
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