『おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記』 全員でトゥルーエンドを目指す優しい世界

水の精霊イメージ
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ぎゅっと要約

  • 滅ぶ運命となった世界をやり直し、登場人物全員の幸せなゴールを探すお話
  • ほんわかラブコメ展開を楽しみつつ、安心してハッピーエンドのお話を楽しみたい人におすすめ
  • 掲載中、最新話(113話)時点でおおよそ小説2冊分

救いのないセカイからの脱出

Imaha486さんの作品。各ネット小説サイトに投稿されていますが、「ノベルアップ+」で一番評価されています。2020年5月の時点で113話まで掲載されています。

滅亡が決まった世界からレベルはそのままで過去に戻り、世界と登場メンバー全員の幸せを目指してやり直すお話です。RPGで一時期定番となった「強くてニューゲーム」ですね。戦闘シーンではコメディ感満載の無双展開を楽しみ、ストーリーでは正解ルートで明らかとなったメンバーの本来の姿に癒され、さらに伏線として前回は気づけなかった不穏な世界のシステムに迫っていくという、1粒で3度美味しい構成となっています。

小説は章立てとなっており、1章ごとに1人のキャラのお話が完結するので、あまり時間がとれない時でも読み進めやすいです。前回の失敗ルートを「救いのないセカイ」と題して各章の冒頭で書いてくれているのも非常に分かりやすくてよいと思います。113話終了時点で小説2冊分程度のちょうどよい分量であり、作者さんも定期的にストーリーを投稿してくれているので、安心して読み始められますね。

ほんわかしつつ、幸せな気持ちで読み進められるおすすめのお話です。

オススメ度とおすすめしたい人

おすすめ度(113話終了時点)

★★★★(おすすめ!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

おすすめしたい人

ハッピーエンドの好きな人、ほんわかラブコメ要素にニヤニヤ来る人、空き時間でも読みやすい小説を探している人、垣間見える不穏な世界のシステムがたまらない人、サツキ妹ちゃんまじ天使

あらすじ

勇者パーティでシーフのカナタは、ラスボス戦を目前にして「シーフと一緒に世界を救うのはコンプライアンス的にちょっと」との理由で追い出されてしまう。単身では後戻りすることもできずに周囲を彷徨うカナタであったが、水の精霊であるエレナが棲む聖なる泉を見つけ、そこを拠点にまったり狩りの日々を送る。

そんなある日、突如として世界中で魔物の氾濫が起こり、世界は一気に滅亡に向かう。カナタは迫りくるモンスターをかき分けてエレナを救いに向かうが、エレナは「神」の課した制約のために聖なる泉から離れることができないのだった。無理やり泉からエレナを救い出そうとし「セキュリティ」から痛烈なダメージを受けることを厭わず、エレナの救出を強く願い続けるカナタ。意識を失う寸前に周りの景色がゆがみ…

気が付くとカナタはエレナとともに故郷の村にいた。日付はカナタがかつて旅立った2年前に戻っていたが、レベルと装備は強いまま。カナタはエレナと妹のサツキともに再び旅に出る。前の旅の日記を片手に、今回は同じ間違いを繰り返さないように。

主な登場人物

  • カナタ
    主人公。シーフだが強くてニューゲームのおかげで戦闘力はかなりのもの。パーティの数少ない常識人であり苦労人。終末の世界でエレナを熱い展開で救い出すも、普段の奥手っぷりは『子宝の神ですら匙を投石器で射出するレベル』
  • エレナ
    カナタに救い出された水の精霊。水と氷、聖魔法までも使いこなし、その魔法の力と天然キャラで魔王四天王といえども一瞬で無力化する。カナタが大好きだが、なかなか進展しないことにやきもきしている。『少しくらい強引にされても、嫌いになったりしません……よ?』
  • サツキ
    カナタの妹にして影の主役。その思いっきりのよさと歯に衣着せぬ言動に、他キャラも読者も悶絶すること間違いなし。天然ぶっとびキャラと思いきや、芯がしっかり通っているのがまた素晴らしい。『そぉい!』

「強くてニューゲーム」で掴みとるトゥルーエンド

「つよくてニューゲーム」、スーファミの超名作『クロノトリガー』で採用されて流行しました。レベルや技、アイテムを持ち越して初めからスタートできるシステムで、レベル上げやスキル成長といった戦闘要素に時間を取られることなく、シナリオに集中してゲームを楽しむことができることが特長でした。副次的に序盤のボスは一撃で無双できるので、俺TUEEEの爽快感を味わえるのも子供心にとても響きましたね。

そんな強くてニューゲームですが、全く同じシナリオをなぞるのでは無くて、1周目には選択できなかったルートに進むことができたりするのも特徴です。『クロノトリガー』の「開始5分でラスボスでかっ飛べ」はあまりにも有名でしょう。本作も、そんな強くてニューゲームの面白さが物語の根本にあり、フラグ立てを完膚なきまでに失敗してしまった1周目のリベンジをすべく、登場人物全員でトゥルーエンドを迎えられるように主人公カナタが奮闘していきます。

本作は1つのサブストーリーごとに章立てがされており、物語の舞台や登場人物は章ごとにほぼ独立しています。そして、各章での1周目の失敗エピソードは「カナタの日記」という形で章のはじめに語られた後、正解ルートのストーリーが始まるため、物語の流れがとても追いやすいです。長編物が苦手であったり、読書の間隔が空いてしまったりしても大丈夫なように、作者さんが気を遣って構成してくれているのだと思います。

サツキの存在が全ての不可能を可能にする!

主人公の妹サツキ。1周目ではカナタの旅に同行していませんでしたが、2週目ではカナタとエレナの恋の行方を見守るお目付け役として付いてきます。

この娘が本当にいいキャラをしてるんです。初めのうちは、ウザかわいい系の妹キャラでコメディ担当との認識でいたのですが、ストーリーが進むにつれて彼女が真の主人公だということに気が付いてしまいました。自分がネット小説を読み進めるとき、実は気に入った台詞回しや世界観をメモしているのですが、本作に関してはほぼ「サツキ語録集」となってしまっているほど。コメディ系もシリアス系もビシッと決まるのは、キャラクターとして愛されているからに違いありません。詳しくはぜひ実際に読んでみてください。

そういえば1周目と2周目の一番大きい違いは、エレナとサツキの存在なんですよね。エレナは戦闘とラブコメ担当なので、新フラグでの新ルート開拓はやっぱりサツキが担当なのでしょう。『そぉい!』

みんなが優しい中でセカイの仕組みだけが不穏

この世界は登場人物みんな優しいのが魅力的です。1周目でカナタを追い出した勇者ですら、2周目ではカナタと別パーティとしてきちんと役割を果たしています。追い出し系のテンプレでありがちな、ざまぁ展開は基本ありません。きっと、前回は正しいルートを進めなかったせいで、結果としてカナタが追い出されてしまったということなのでしょう。

一方で物語の端々で出てくる、「神」と「セカイの仕組み」だけが不穏な雰囲気を漂わせています。冒頭で聖なる泉に魔物の群れが迫るなか、エレナは「泉を出る権限がない」ため逃げられませんでした。「神」はエレナの命が失われることで、魔物の暴走を知るようにシステムを組んでいたのです。各章で展開されるストーリーでも、怪しげな黒い石板だったり、システムメッセージだったりと、端々に「神」の存在が見え隠れします。なんだかゲームのプログラムのような…?

今後の展開でどのように真相に迫るのか楽しみです。

 

サツキをはじめとする登場人物たちの活躍に時には笑い、時にはほっこりしつつ読むことのできる素晴らしい作品だと思います。物語の続きとても楽しみにしています!

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