『引き籠り錬金術師は引き籠れない―何だか街が発展してるみたいだけど家でのんびりさせて下さい―』 コミュ障×深謀遠慮=領地発展!?(四つ目)

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感想とおすすめポイントまとめ

  • 凄腕だが極度のコミュ障の錬金術師と、彼女の言動を何かと深読みしすぎる仲間たちとが絶妙に噛み合い、領地が発展していくお話。
  • 文章の楽しさを味わえる作品。主人公セレスの素直な思いと、深謀遠慮しすぎな周囲の対比が最高に面白い!
  • 連載中。362話終了時点でおよそ小説12冊分の超大作(約170万字)
  • 書籍化作品、ドラゴンノベルズより小説版が発売中!

人見知り口下手な錬金術師がのんびり暮らそうとしているだけなのに

四つ目さんが「小説家になろう」、「カクヨム」にて連載中の作品です。

2019年の3月に投稿を開始されて2年足らずで170万字に達する超大作。大長編にも関わらず、常に新鮮な気持ちで読み進めていくことのできる素晴らしい作品です。書籍化作品であり、今月には2巻が発売されるとのこと、おめでとうございます!

凄腕の錬金術師であるにも関わらず、人前に出ることが全くもって苦手なために実家で引きこもり生活をしていた主人公セレス。見かねた母に、着の身着のままで見知らぬ街に置き去りにされてしまったところから物語はスタートします。錬金術師としても冒険者としても卓越した実力を持つセレスは、調合依頼や魔物討伐で日銭を稼ぎ、平穏にのんびり引き籠り生活をしようとしますが…

本作の楽しさの肝は、セレスが人前では緊張のあまり、極度に口数が少なくなり、表情や目つきも鋭くなってしまうという設定です。セレスはコミュ障をおして頑張って依頼をこなしているだけなのに、その超絶な腕前に加えて、ぶっきらぼうな言動や厳しすぎる視線が原因となって、周りの人々が「言葉の裏の要求があるのでは」とか「別の狙いを隠しているのでは」などと深読みをしてしまうのが面白いところ。

セレスは自分がのんびり暮らすことだけを考えているのに、周囲の深読みが見事に噛み合っていき、街のみならず国を揺るがす変革につながっていきます。セレスと相手との間の大きすぎる認識のギャップは、読んでいてたまらないポイントです!

キャラクターや物語世界の設計も非常に素晴らしく、楽しめること間違いなしの作品です。読み始めたら最後、眠れない夜が続くことを覚悟してください(笑)

おすすめ度(362話時点)

★★★★★(星5つ、殿堂入り!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

主人公のセレスは母に技術を叩きこまれた錬金術師である。

錬金術師としては天才であり、採取の為の危険行動も苦と思わず、戦闘能力も高い。

だが彼女には致命的な欠点が有った。余りにもコミュ障だったのだ。

その結果才能を腐らせ引き篭もり、切れた母の手で見知らぬ地に放り出される。途方に暮れながら街に向かい、コミュ障を全力で拗らせつつも才能を発揮。只々人に会わない選択をしているだけだが上手くいき、それと共に勝手に街も発展していく。

これは引き籠ろうとするが引き籠れない日々を送る、優秀だが残念な錬金術師の物語。

目指すは完全なる引き籠りライフ。出来るかどうかは解らない。

「カクヨム」本作ページより引用

小説だからこそ表現できる面白さ

口下手な主人公セレスが人前であがっているだけなのに、相手が全然違った捉え方をしてしまうのが本作の鉄板の展開です。

例えば、物語の冒頭でセレスが街の門番と会話するシーンがありますが、門番サイドの視点では「セレスの只者ではない眼光におびえ、底冷えするような声色と圧力に明確な死の気配を感じた」のに対し、セレス視点では「門番の声の強さに驚いて、びくびくと怯えながら上目遣いで話を聞いていた」となってしまうわけです。

こういったすれ違いが積み重なり、セレスの想像の斜め上の方向にストーリーが展開していきますが、当のセレスだけは全然気づいていないというのが本作の醍醐味。セレスの素直な言動を深読みしすぎる仲間たちも登場し、セレスを巡る物語はますます加速していきます。

この「セレス側」、「相手側」と視点を頻繁に切り替えてのやりとりは、小説だからこそ表現することのできる面白さだと思います。

マンガだと同じ絵の繰り返しになりますし、アニメだとモノローグ被りすぎでくどくなっちゃいますよね。さらに、ネット小説という各話が細か区切られている形式とも相性抜群で、話中で視点の切り替えが頻繁におこっても違和感を感じません。

面白さを支える魂の籠ったキャラクターたち

セレスと相手の勘違いが定番として繰り返されるストーリーですが、170万字を超える大長編にも関わらず飽きることなく新鮮な気持ちで読み進めていくことができます。

これは、セレスをはじめとしたキャラクターの在り方や成長がしっかりと作り込まれていて、毎度の応酬であっても常に変化があるためだと思います。

まずセレスですが、対人では極度のコミュ障な一方、錬金術や戦闘には淡々と職人肌で対応する姿が描かれており、さらに爆弾好きでバトルジャンキーな一面や、大切なものを全力で守ることに躊躇しない様子など、作中の様々な出来事を通じてキャラクターを生き生きと感じることができます。初めは緊張のあまり常に鉄面皮ですが、内面の成長によって仲間たちに無防備な笑顔を見せるようになる様はたまりません。

セレスを囲む仲間たちも、セレスに対する思いが、「畏怖」、「尊敬」、「同僚」、「友人」、「ライバル」、「盲信」などなど少しずつベクトルが違っているんです。

セレスの言行がそのまま素直に伝わらない点は皆同様なのですが、それぞれの持つセレスの印象によって、深読みや勘違いの方向性が異なってくるのが本当に面白いです。

 

「今回はそうきたか~」とニヤニヤしながら夜な夜な読みふけってしまいました。

大作ですが途中まででも楽しさを十分に味わえます。ぜひご一読をおすすめしたい素晴らしい作品です!

 

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