『魔術師クノンは見えている』 生きるとは世界を見つめ続けること(南野海風)

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南野海風さんの作品、『魔術師クノンは見えている』をレビューします。

  • 生まれつき目が見えず生きる意味を見失っていた主人公が、魔術の力で世界を見ることを目標に立ち上がり、魔術師として成長していくお話
  • ハイレベルなストーリー構成人物設計が素晴らしい作品。クノンの活躍を楽しく追いつつも、自分が見ているものは何なのか、人生をどう生きるべきか考えさせられる

 

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人生のあり方にそっと寄り添う作品

南野海風さんが「小説家になろう」に投稿中の作品です。連載開始は8月下旬であり、最近は週3回とややゆったりめの投稿頻度にも関わらず、激戦のなろう月間総合ランキング1位に燦然と輝く人気作品です。

作者の南野海風さんは「俺のメガネはたぶん世界征服できると思う」をはじめとした書籍化作品をもつ有名作家さんであり、本作についても既に様々なサイトでレビューがされていますが、非常に素晴らしい作品なので自分も思わず書いてしまいました。

人生とは、たった一言で全てが変わることがある」、これが冒頭の一行であり、本作を貫くテーマになっています。主人公のクノンは貴族の生まれですが生来目が見えず、水魔術の才があることが分かっても無気力な生活を送っていました。

そんなクノンですが、魔術の家庭教師が水球の大きさについて語った、「――ああ……そうですね。目玉くらいの大きさでしょうか」との一言で全てが変わります。水魔術で目玉を作り上げ、世界を見ることを目的に魔術に邁進することになるのです。

ここまではありがちな頑張りものですが、クノンのキャラの変わりっぷりがまた素敵なのです。生きる目的を見出した彼は、ゴールを目指しつつも人生を楽しむためのキャラを創り上げます。女性に甘くてキザな科白を吐くクノンは、他人からは軽薄なキャラなようにも見えますが、元の姿を知っている私たち読者には全く違うように見えるから不思議なものです。作者さんの巧妙な仕掛けですね。

クノンの立ち振る舞いにくすりとしつつも、彼の見ようとするものに引き込まれて行ってしまう本作、間違いなく名作です!

ぜひ多くの人に読んで頂きたい作品です。

  • 投稿サイト:「小説家になろう」
  • 21年8月投稿開始、連載中
  • 21年10月時点で約20万字、単行本2冊弱のボリューム

おすすめ度

66話時点(2021年10月)

★★★★★(星5つ、殿堂入り!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

人生とは、たった一言で全てが変わることがある。

「英雄の傷跡」と呼ばれる呪いを受け、視覚を失って生まれたクノン・グリオン。
視界どころか生きる意味さえ見えない彼は、無気力な幼少期を送っていた。
そんなある日、身体に水の紋章が浮かび上がり、魔力があることが判明する。

だからどうした。
魔力があろうと、魔術が使えようと、見えないことには変わりない。
クノンには相変わらず生きる意味が見えなかった。

そんなクノンを、そんなつもりのない思いがけない一言が覚醒させる。

「小説家になろう」本作ページより引用

見えることとはどういうことか

当たり前のように見ている世界ですが、実際には目が感じた光の反射を脳で処理しているのであって、万人にそれぞれ違った見え方があるはずなのです。

事故や手術の影響で世界の見え方が変わってしまうお話としては、古くは手塚治虫の「火の鳥」のロボットのストーリー、近くでは「沙耶の唄」が有名でしょう。

そこまで極端ではなくても、自分が見ている「赤」と、他人の見ている「赤」はきっと全く同じということはなく、主体によって見え方が違ってきているはずです。自分個人に限っても、気分次第で景色の見え方は全然違いますよね。

翻って本作ですが、主人公クノンは、魔術の力によってはじめは触っているもののを、そして徐々に視界を手に入れていきます。ただし、世界を見ることを渇望して一筋に生きてきたクノンに「見える」ものは、どうやら普通の人とは違うようで…

タイトルの「魔術師クノンは見えている」ですが、クノンには一体何が見えているのか、クノンが見ている世界はどういうものなのか興味が尽きません。今後の展開で徐々に解き明かされていくことを楽しみにしています!

  

貫録のなろうトップ作品素敵なキャラクター達に、深みのあるストーリーと文句なしの名作です。ぜひ手に取って欲しい作品です!

  


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