『魔帝令嬢と妖精のおっさんの一年記』 ただし光は尻から出る(南野海風)

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南野海風さんの作品、『魔帝令嬢と妖精のおっさんの一年記』 をレビューします。

  • 最高の魔法の素質を持つ主人公が妖精のおっさんを召喚してしまい、士官学校卒業までの1年間をともに過ごすお話
  • 無為に過ごすおっさん妖精の様子が徐々に癖になり、いつの間にか登場キャラのみならず読者まで巻き込み、おっさんを中心に世界が回っている仕掛けが面白い

 

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おっさん妖精が何もしないお話

南野海風さんが「小説家になろう」、「アルファポリス」に掲載されている小説です。今年4月に掲載開始から、約17万字をもって既に完結済み。気軽に楽しむにはちょうどよいボリュームですね。

作者の南野海風さんは、『魔術師クノンは見えている』の書評でも紹介の通り、多数の書籍化作品をお持ちの作家さんです。今回はタイトルが気になった本作に手を伸ばしてみました。

主人公フレイの魔法の才能は魔帝ランク。数百年に一人という才能を守るため、自宅で箱入り娘として育てられてきました。成長して魔法騎士の士官学校に入学することとなり、輝かしい魔法の才能をいかんなく示しますが、そのあまりの能力と生来の口下手のせいで、周囲との間に隔たりができてしまっていました。そんな彼女が士官学校の最終学年に進学するにあたって、妖精召喚の儀式を行ったところ、真顔のおっさんの妖精がでてきてしまって…。

この妖精、他の人からは眩い光を振りまく高貴な姿に見えているようなのですが、フレイからするとその光すら尻から出ている始末。特殊な能力があるとか、秘めたる真の姿があるとか、特別なエピソードが分岐するとかそんなことは全くなく、おっさんを傍らにフレイの最終学年が粛々と進行していきます。

何もなければありがちな無双ものになってしまうところを、傍らに特になにもしないおっさんを添えるだけで、視点がずれて別のテーマになってしまうのが本作の非常に面白いところ。

この独特の魅力は文章ではなかなか伝えにくいので、気になった方はぜひお手にとってみて下さい!

  • 投稿サイト:「小説家になろう」「アルファポリス」
  • 21年4月投稿開始、完結済み
  • 約17万字、単行本1冊強のボリューム


同一作者さんの作品レビューはこちら!

おすすめ度

完結時点

★★★★(星4つ、おすすめ!)

★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。

あらすじ

フレイオージュ・オートミールは「魔帝ランク」である。

一色の魔法使い「ただの魔法使いランク」は、それなりにいる。
二色の魔法使い「魔鳥ランク」は、まあまあいる。
三色の魔法使い「魔王ランク」は、かなり珍しい。
四色の魔法使い「魔竜ランク」は、非常に珍しい。

五色を有する「魔帝ランク」は、数百年に一人という稀有な存在であった。

外敵から身を守るように。
また、外部要因で当人の人格や性格を歪ませないように。

オートミール家の箱庭で純粋培養で育てられた彼女は、十年ぶりに外出し、魔法騎士の士官学校に通うことになる。

特に問題もなく、順調に、しかし魔帝に恥じない実力を見せつけた一年間を経た、士官学校二年目の初日。

彼女は、おっさんの妖精と出会うことになる。

「小説家になろう」本作ページより引用

おっさん妖精を中心にフレイが世界と交わるお話

役に立つことは基本何もしないおっさん妖精ですが、フレイを他人とつなげる重要な役割を果たしています。

気ままに周囲の人達にまとわりつく妖精の所業をフレイは謝って回りますが、他人から見れば気高い妖精、嫌な気分になるはずもなく、むしろ会話のきっかけをつくってくれていることになります。実際にはおっさんが真顔でまとわりついているんですけどね(笑

妖精が何かやらかさないか心配で見守るフレイの視線は、周囲からみると自らの美しい妖精を慈愛のまなざしで見つめているようにとられ、これもまたフレイの人間らしさを引き出すことで周囲との溝を埋めるのに一役買うことになります。

小説の舞台は何も変わらないにも関わらず、おっさん妖精の存在だけで、最強魔法無双ものが、フレイの内面の成長のテーマへと大きく変わるのが非常に面白い仕掛けとなっています。

さらに憎いのは、自分たち読者からは、「おっさん妖精の行動に振り回されるフレイ自身」と「高貴な妖精と共に歩む魔帝フレイを見つめる周囲」の両方の立場を第三者視点で眺められるようになっていることです。おっさん妖精の活躍を知ることができるのは読者だけ

魔術師クノンは見えている」を読んだ時にも感じましたが、作者の南野海風さんは視点の使い方の本当に上手な方だと思います。これぞ、小説の良さですね!

  

読み終わったあとに何だか温かい気持ちになれる作品です。

おっさん妖精フォーエバー!

  


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