感想とおすすめポイントまとめ
- 記憶を無くして転生した主人公が、成長する剣を片手に「黒の世界」を探索するお話。
- 古き良き時代のRPGを彷彿とさせるシステムが魅力。少しずつ成長を重ねつつ拠点を充実させ、新しい場所の探索を進めるという分かりやすい楽しさ。
- 物語の構成が非常によく練られており、自分が冒険を進めているかのような一体感・没入感が感じされる。RPG好きにオススメ!
- ストーリー展開が秀逸なため一気読みの寝不足に注意。
- 連載中。107話終了時点でおよそ小説2冊程度のボリューム。2020年11月に書籍化。
古き良き時代のRPGを彷彿とさせる洗練されたシステムが魅力
迷井豆腐さんが「小説家になろう」、「カクヨム」にて連載中の作品です。2020年6月に投稿を開始されて、わずか5か月後の11月にはドラゴンノベルズより小説が出版された名作です。
作者の迷井豆腐さんはタイトルが「黒」からはじまる特徴的な4作品(本作に加えて、『黒凪のダンジョンマスター』、『黒の召喚士』、『黒鉄の魔法使い』)を小説家になろうにアップされています。全ての作品が書籍化されていることも凄いですが、完結済みの『黒鉄』以外の3作品を平行して更新されていらっしゃるのには脱帽です。本作が気にいった方はぜひ他作品も手に取られることをおすすめします。
さて、本作ですが、探索系RPGの世界を舞台とした主人公の成長ものとなっています。敵を倒して経験値を稼ぎつつ、ボスを倒して武器を大きく成長させていくのが大きな流れですね。
大きな特徴となるのがスキルの扱い。敵を倒すことで得られるスキルが攻略の重要ポイントとなるのですが、スキルがセットできる数が制限されていることから、探索エリアの敵構成を想像しながら使用するスキルを考える必要がでてきます。
この設定に作者さんの巧みな文章構成が相まって、スキル構成や新スキルの活用方法を考えながら一緒に冒険をしているような気持ちになれることが本作の素晴らしいところです。上質なゲーム実況を見ている感じといったら伝わりそうでしょうか。古い人間の自分は、子供の頃にはまったゲームブックを思い出したりしていました。
ストーリー展開も秀逸で飽きさせません。探索・成長ものでありがちな単調なルーチン展開と無縁な点も本作のおすすめポイントです。物語はまだまだ中盤、徐々に軌道に乗りつつある主人公の冒険の今後がとても楽しみです。
ノベライズされた書籍はこちら
おすすめ度(107話時点)
★★★★★(星5つ、名作!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
あらすじ
全ての時間・宇宙の負の感情が集まり、死霊の掃き溜めになった場所『黒檻』。この絶望の監獄へ『願い』を叶えるため、記憶を捨てて堕ちてきた主人公べクト。負の毒素を莫大にため込んだ死霊を浄化し、『死の巫女』の下へたどり着くことで、黒檻は不可能な『願い』を叶え、元の世界へと戻してくれるという。ベクトは言葉を話し成長するナイフを相棒に、黒檻の世界を探索して死の巫女を探す事にした。探索の最中で善良な霊を助け、仲間とし、拠点を拡張させながら探索を進めるベクトの向かう先にあるものは―――?
「小説家になろう」本作ページより引用
武器とスキルを成長させて、拠点を拡張して、探索を進めて…
謎の世界に転生してきた主人公ベクトの最終目標は、「死の巫女」の元にたどり着いて元の世界に戻してもらうこと。そのためには難敵のいるエリアを越えるために少しずつレベルアップしていく必要があります。
この成長と探索の繰り返しは、まさにJRPGの王道パターンですよね。某ドラクエで例えると、はじめはカラスに苦戦していたのがレベルアップで少しずつ余裕がでてきて、くさりがまを買ったりギラを覚えたりすることで塔にも上れるようになるような。JRPGでコツコツ成長させていくことが好きな人には、間違いなく相性ばっちりの作品だと思います。
さらに、拠点の成長要素がある点もよいスパイスになっています。探索中に仲間を保護することができると、その仲間に所縁のある施設が拠点に増えていくのですが、これらの施設の活用も攻略の重要なポイントとなっています。どんな施設が増えるのか、施設の成長によってどんなことが出来るようになるのかを想像するのも楽しいものです。
ほんと、自分がゲームをしているみたい。
自分が選択肢を選んでいるかのような一体感
本作への没入感をさらに高めているのが、スキルシステムです。
敵を倒した場合、敵の持つスキルを入手することができるのですが、レア強敵の場合は特別なスキルを持っていたり、ボスは特別強力なスキルをもっていたりと、階段を上がるごとに出来ることが増えていくのがまず面白いです。
加えて、スキルに装備数制限があることが攻略をさらに面白くさせてくれています。今でこそ一般的なスキルのスロット装備システムですが、有名になったのはFF5からでしょうか。装備するスキルで攻略難易度が大きく変わる仕組みは、「レベルを上げて殴る」PRGに慣れ親しんだ小学生の自分にとって衝撃でした。「にとうりゅう」、「みだれうち」のために頑張ったなぁ…
一寸話が逸れました。本作ではこのスキル制を生かすことで、スキルものでよくある「多量のスキルでページが埋め尽くされる現象」とは一線を画しており、どのスキルを装備して探索に臨むべきか、読者も一緒にわくわくしながら考えることができます。
さらにボスを倒した場合、装備中のスキルがレベルアップするシステムとなっていることから、「成長させたいスキル」と「ボスに有効そうなスキル」のどちらを装備していくべきか、大いなる悩みどころとなってしまうのです…
ストーリーはまだまだ中盤に入ったところであり、ここからベクトによる新領域の開拓が本格的にスタートしそうです。物語の展開はもちろん、どんな面白いスキルが出てくるのか、拠点がどのように成長していくのかも要チェックです!
書評のつもりが、すっかりゲームの思い出トークになってしまいました…
それだけ名作JRPG好きにバッチリささる作品であることは間違いありません。主人公と一緒に謎の世界の探索を楽しみましょう!