本記事では、2019年~2021年に掲載が開始された比較的新しい小説の中から、自分が特におすすめする作品を紹介します。
個別作品のレビュー記事にて、かぴばー評価を最高の★★★★★とさせて頂いた作品をピックアップしています。前回3月掲載のおすすめ小説まとめの後、新たにレビュー中から7つの作品を2021秋分としてまとめました。
この記事がフレッシュな名作に巡り合いたい皆様の参考になればうれしいです!
過去のオススメ小説まとめは下の記事からどうぞ。
『魔術師クノンは見えている』(南野海風)
- 生まれつき目が見えず生きる意味を見失っていた主人公が、魔術の力で世界を見ることを目標に立ち上がり、魔術師として成長していくお話
- ハイレベルなストーリー構成と人物設計が素晴らしい作品。クノンの活躍を楽しく追いつつも、自分が見ているものは何なのか、人生をどう生きるべきか考えさせられる
南野海風さんが「小説家になろう」に投稿中の作品です。連載開始は8月下旬であり、最近は週3回とややゆったりめの投稿頻度にも関わらず、激戦のなろう月間総合ランキング1位に燦然と輝く人気作品です。
「人生とは、たった一言で全てが変わることがある」、これが冒頭の一行であり、本作を貫くテーマになっています。主人公のクノンは貴族の生まれですが生来目が見えず、水魔術の才があることが分かっても無気力な生活を送っていました。
そんなクノンですが、魔術の家庭教師が水球の大きさについて語った、「――ああ……そうですね。目玉くらいの大きさでしょうか」との一言で全てが変わります。水魔術で目玉を作り上げ、世界を見ることを目的に魔術に邁進することになるのです。
ここまではありがちな頑張りものですが、クノンのキャラの変わりっぷりがまた素敵なのです。生きる目的を見出した彼は、ゴールを目指しつつも人生を楽しむためのキャラを創り上げます。女性に甘くてキザな科白を吐くクノンは、他人からは軽薄なキャラなようにも見えますが、元の姿を知っている私たち読者には全く違うように見えるから不思議なものです。作者さんの巧妙な仕掛けですね。
クノンの立ち振る舞いにくすりとしつつも、彼の見ようとするものに引き込まれて行ってしまう本作、間違いなく名作です!
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『オフィーリアの解読書~文字を愛した少女は、ただ文字解読がしたいだけなのです~』(佐月 壱香)
- 前世の記憶を持って異世界に孤児として転生した主人公が、厳しい生活を生き抜きつつも、解読の知識を生かして失われた精霊の真実に迫っていくお話
- 等身大の少女として描かれる主人公の頑張りに引き込まれる作品。情景の描写も素晴らしく、目の前に場面が描き出されるかのような鮮やかさ
佐月 壱香さんが「小説家になろう」、「カクヨム」に投稿中の作品です。
主人公は大学で古代文字解読の研究に励む学生でしたが、気が付くと異世界でオフィーリアという少女に転生していました。オフィーリアは孤児院住まい。他の孤児たちと協力して慎ましく厳しい生活を送ってきていましたが、転生前の記憶が蘇ったことで、孤児院の壁画に書かれた古代文字の解読に励むことになります。文章には壁画に描かれた精霊に関係しているようですが、異世界でも精霊はおとぎ話の中の存在であって… 壁画の内容の解明、そして更なる未解明文字との出会いのため、オフィーリアは邁進していきます。
世界観のつくりこみが素晴らしい作品です。貴族がいて身分制度のある中世ライクな世界設計ですが、孤児であるオフィーリアとの間には埋めがたい差が存在しており、「ちょっと現在知識があって、精霊の力が使える」程度では思うように身動きがとれません。少しずつ出来ることを増やして認められていくオフィーリアのがんばりは非常に現実感があり、読んでいて思わず感情移入してしまいます。
40話、15万字を超えても常にワクワクの止まらない展開で、日々の更新を首を長くして待っています。とてもおすすめの作品です!
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『俺の召喚獣、死んでる』(楽山)
- 相棒の召喚獣として伝説の魔獣の死体を呼び出してしまった主人公が、その力を蘇らせる方法を探して奮闘するお話
- 神話からはじまる壮大な世界観を小説として綺麗にまとめ上げた珠玉の作品。主人公と仲間たちの人物描写も素晴らしく、読了後に感じる余韻がたまらない。
楽山さんが「カクヨム」にて掲載されている小説です。本作は第6回カクヨムWeb小説コンテストにて特別賞を受賞されました。おめでとうございます!
主人公フェイルは召喚術師育成のための学園に通う学生。平民ながらお金を貯めて入学した苦学生です。召喚術師の最初の召喚獣は「片割れ」と呼ばれ、強力な力を持つ相棒となるのですが、フェイルが片割れとして呼び出したのは伝説の魔獣の死体。山ほどの大きさの体躯に強硬な外皮を誇るものの、当然ぴくりとも動く様子は無く… 学園で最も優れた召喚術師を決める召喚祭を目前に控えて、フェイルは相棒の力の片鱗だけでも何とかして蘇らせようと仲間たちと奮闘します。
タイトルからは出オチ系コメディの雰囲気を感じていたのですが、読み始めてすぐに認識を改めました。伝説の魔獣にまつわる神話伝承をはじめ、精霊や魔法の在り方に人間国家の状況などなど、細部に至るまでしっかりと世界観の作り込まれた重厚なファンタジー作品となっています。
素晴らしいクオリティで綴り上げられた本作、ぜひ多くの方に味わっていただきたいです!
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『がんばれ農協聖女 ~聖女の地位と婚約者を奪われた令嬢の農業革命日誌~』(佐々木鏡石)
- 聖女の地位を追われて婚約者にも裏切られた主人公が、聖女修行のなかで身につけた農業知識を生かして、辺境の寂れた土地を復活させようと頑張るお話
- 作者さんの農業知識の深さに脱帽。単純に技術発展で終わらせるのではなく、保守的な農村の様子も描いている点もよい。人物描写も素晴らしい。
佐々木鏡石さんが「小説家になろう」で公開中の小説です。今年12月に書籍化、その後のコミカライズも決定しているとのことで、面白さは折り紙付きですね。
主人公アリシアは聖女見習い。先代聖女のもとで修業に励み、聖女に必要な知識の獲得に努めていましたが、婚約者である王子に裏切られ聖女の地位も追われてしまいます。失意のなかで向かったのは、かつての大飢饉の際に先代聖女と訪れた辺境伯領地。いまだに飢饉の爪痕の残る村々の様子をみて、聖女見習いとして勉強した農業知識をもって立て直しを図りますが…
タイトルに「農協聖女」とあるだけあり、農業を中心に領地改革に取り組む作品となっています。素晴らしいのは、上っ面の技術だけではなくて、実際に農業で生きる農民たちにもしっかりと触れているところ。領地改革ものでありがちな展開として「やれ肥料だ、二毛作だ、三圃式農業だ」と転生者が技術を伝えるだけで生産量が爆発する絵がありますが、人が関わる以上はそんなに浅いはずはないんです。農民たちにとっては得体のしれない農法であり、しかも失敗したら家族ともども飢え死にするかもしれないとしたら、そんな簡単に採用できないでしょう。
農業に対する熱い書き込みに加えて、人々の心情に対する深い洞察も魅力です。主人公たちのみならず、農民たちや追放側の妹・王太子に至るまで、みな性格は様々ですが、しっかりとした人間として描かれています。いわゆる「ざまあ」展開の場合、単純なエンターテイメントのために敵側の思考がものすごく抜けている作品が多いのに対して、本作のバランスの取り方は絶妙だと感じました。
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『追放されてきた実は強かった系主人公に幼馴染を奪われギルドを追放された俺は最低最悪な特殊条件をクリアし覚醒する』(小春)
- 全てを失ったことをきっかけに特別なスキルに目覚めた主人公が、今まで歩んできた人生を清算して、新たな一歩を踏み出そうとする物語
- 人の心の仄暗い部分に焦点をあてて紡がれる重厚なストーリー。スキルをテーマとしたファンタジー作品だが、心の在り方は現実でも同じではないだろうか。味わい深い作品をお探しの方におすすめ!
小春さんが「カクヨム」で掲載されている小説です。21年2月に投稿を開始され、4月に前編が完了しました。前、中、後編の3部構成を予定されているとのこと、これからも楽しみな作品です。
舞台は保有スキルのランクによって人生が大きく左右される世界。主人公ジークの持つ鑑定は最低ランクのスキルですが、幼馴染で恋人のシルクやギルドの仲間たちとともに、貧しくも幸せな毎日を過ごしていました。ところが、ある日ギルドにやってきたSランクスキル持ちにより日常が狂いはじめます。シルクを奪われ、ギルドという居場所も失ったジークは失意のなかで未知のスキルに開眼しますが…
ストーリーの設定自体は典型的な「ざまぁ」ものであり、王道展開であればゲットしたスキルでひたすら無双して古巣を見返して気持ちよくなるところですが、本作はストーリーの深みが桁ちがいでした。得られたスキルは軽々しく扱えるようなものではなく、スキルによる縁で得られた仲間の力を借りつつ、ジークは心で泣きながら古巣での今までの人生にけじめをつけていくことになります。
人の心の掘り下げ方がとにかくもの凄く、主人公のジークはもちろんのこと、幼馴染もSランク持ちも他の登場人物についても、明るい面も暗い面もひっくるめて描かれています。鋭くも豊かな心理描写は「ネット小説」の枠を大きく超えており、現実の人間関係にも当てはまるレベルでしょう。自分も本作を読み進める中で、過去の大きな別れと仄かな切なさを思い出して少し感傷的になってしまいました。
世界観や文章力も含めて素晴らしいクオリティで仕上げられた作品であり、ぜひ多くの方に読んで頂きたいです。おすすめです!
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『やりなおし貴族の聖人化レベルアップ』(八華)
- 悪魔に魂を売って王国を滅亡させてしまった主人公が、過去に巻き戻って破滅を回避するために人生をやり直すお話
- 主人公のリトライを補助する「システム」の存在が秀逸。ゲーム仕立てで善行を習慣化させることを起点に、主人公の心境や行動が徐々に変わっていくリアルな描写が見事。物語の展開もダイナミックで◎
八華さんが「カクヨム」、「アルファポリス」、「ノベルアップ+」に投稿された小説で、既に完結済みとなっています。
悪魔に魅入られて王国を滅亡させてしまった主人公のセリム、気が付くと14歳のある日に巻き戻っていました。過去と違うのは、目の前に浮かぶ謎のウインドウメッセージ。そのシステム曰く、求道者としてレベルを上げることで悪魔の誘惑を振り払うことができるそうなのですが、現状のレベルはまさかのマイナス51。善行を積むことで経験値が得られることに気づいたセリムは、まずはレベルをプラスにすることを目標に人生を再スタートしますが…
セリムの思考や行動が無意識のうちに求道者へと変わっていく様子が、見事に描き出される点が魅力の作品です。巻き戻しからの人生やり直しは普遍のテーマですが、人間の本質ってそんなに簡単には変われないものです。前世でいくら辛い思いをしていたとしても、生まれ変わって楽に生きられる環境になったら、ぬるま湯につかってしまうはず。なので、巻き戻し後にいきなり別人のような良人格になっているような作品には、少し違和感を覚えていました。
本作では、善行によって経験値という対価を得られるシステムに加え、前世の公子とは異なる求道者という立場へとセリムの立ち位置を変えたことによって、セリムの心境や行動の変化をしっかり納得して受け止めることができます。セリムの行動がいつの間にか他者に大きな影響を与えるようになり、まさに聖者へと変化していく様子の描写は見事です。
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
『ロープレ世界は無理ゲーでした − 領主のドラ息子に転生したら人生詰んでた』(二八乃端月)
- やり込んでいたゲーム世界にやられ役のモブキャラとして転生してしまった主人公が、数年後に起こる魔物襲撃での死亡エンドを回避するために一歩一歩がんばるお話。
- チート無しの正統派ファンタジー。主人公がゲーム知識を武器にレベルアップや仲間集めに励み、着実に力を付けていく様は正統派主人公のよう。ストーリー展開も秀逸。
二八乃端月さんが「カクヨム」、「小説家になろう」で公開中の小説です。
本作はゲーム世界への転生もの、流行りのジャンルですね。現実世界で営業職のサラリーマンだった主人公ですが、外回り中に階段で足を踏み外し、気が付くと以前にやり込んだゲームの世界に転生していました。ただし、転生先の少年キャラはゲーム世界の主人公たる勇者ではなく、序盤のかませ役である悪徳領主の息子ボルマン。しかも、転生時から数年後には、ボルマンの住む領土は魔物の襲来によって滅亡することを思い出します。人望なし・お金なし・レベル低しの3重苦ながら、ゲーム世界と現実世界の知識を武器に、生き残りを賭けて立ち上がりますが…
さすがの商業化作品であり、文章力が高くてとても読みやすく、ストーリー展開も緩急が心地よくて引き込まれます。主人公ボルマンを囲む仲間たちも、健気なヒロインにツンデレ魔法少女、脳筋戦士に金庫番と、安心して読める定番ラインナップでありつつも各キャラの書き込みが深く、生き生きとした活躍ぶりを楽しむことができます。
詳細な書評は以下の記事をご覧ください。
かぴばー評価の説明と個別記事のおすすめ
個別作品のレビューは、かぴばー評価が★★★~★★★★★の範囲で作成しています。実際には個別レビューした作品の数倍の小説を読んでおりますが、個人的にオススメできると感じた作品をピックアップして記事にしています。
★の数の意味合いとしては以下のイメージです。基本的には最新話まで読み切った上でレビューをしています。
★★★: 面白くて最後までついつい一気読みしてしまう
★★★★: ハマって睡眠時間返上で読み切った上、新規投稿を日々待つ
★★★★★: 星4に加え、ざっくり刺さる設定や展開に感動する
特に星4か星5かについては個人的な感性の部分が大きいと思いますので、本記事のおすすめ作品と波長が合いそうな方は、ぜひ上記以外の個別作品のレビューにも目を通していただけると嬉しいです!
過去のオススメ小説まとめは下の記事からどうぞ!