佐月 壱香さんの作品、『オフィーリアの解読書~文字を愛した少女は、ただ文字解読がしたいだけなのです~』 をレビューします。
- 前世の記憶を持って異世界に孤児として転生した主人公が、厳しい生活を生き抜きつつも、解読の知識を生かして失われた精霊の真実に迫っていくお話
- 等身大の少女として描かれる主人公の頑張りに引き込まれる作品。情景の描写も素晴らしく、目の前に場面が描き出されるかのような鮮やかさ
オフィーリアと共に異世界を生きる
佐月 壱香さんが「小説家になろう」、「カクヨム」に投稿中の作品です。Twitterで紹介されているのを拝見し、「解読」というタイトルに惹かれて読みはじめてみたところ、とても素晴らしい作品でした。
主人公は大学で古代文字解読の研究に励む学生でしたが、気が付くと異世界でオフィーリアという少女に転生していました。オフィーリアは孤児院住まい。他の孤児たちと協力して慎ましく厳しい生活を送ってきていましたが、転生前の記憶が蘇ったことで、孤児院の壁画に書かれた古代文字の解読に励むことになります。文章には壁画に描かれた精霊に関係しているようですが、異世界でも精霊はおとぎ話の中の存在であって… 壁画の内容の解明、そして更なる未解明文字との出会いのため、オフィーリアは邁進していきます。
世界観のつくりこみが素晴らしい作品です。貴族がいて身分制度のある中世ライクな世界設計ですが、孤児であるオフィーリアとの間には埋めがたい差が存在しており、「ちょっと現在知識があって、精霊の力が使える」程度では思うように身動きがとれません。少しずつ出来ることを増やして認められていくオフィーリアのがんばりは非常に現実感があり、読んでいて思わず感情移入してしまいます。
また、本作のタイトルである文字解読とつなげて、精霊という存在が解き明かすべき大きなテーマとして設定されている点も読ませます。文字解読で得られる知識が本作の世界観に大きく関わる内容であることから、読者もオフィーリアの解読作業の進展を心待ちにしてしまう仕組みとなっています。
40話、15万字を超えても常にワクワクの止まらない展開で、日々の更新を首を長くして待っています。とてもおすすめの作品です!
おすすめ度
41話時点(2021年11月)
★★★★★(星5つ、名作!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
あらすじ
「文字を解読できる喜びがこの世界でも味わえる……?」
階段から落ちたことで前世の記憶を取り戻したオフィーリア。前世では古代文字解読に関することに携わりたくて大学院で学んでいたが、不慮の事故で命を落としてしまう。しかし、さまよい歩いていたらこの世界でも解読されていないであろう文字があることをたまたま発見する。
そこに文字があるのならば!
とりあえず初めに見つけた壁文字を解読してみよう────。暮らしている孤児院の講堂の壁に彫られた見慣れない文字を読むためにオフィーリアは奮闘する。
そのするうちに、彼女は自分を精霊と名乗る小さな存在を呼び出してしまう。
文字を解読したい、その自分の欲求に従った行いがオフィーリアの今後の運命を変えていくことになる。これは転生少女オフィーリアが忘れられた文字を読み解いていくことで巻き起こる物語。
「小説家になろう」本作ページより引用
活字だから描くことのできる鮮やかな情景
本作はストーリーの面白さもさることながら、情景描写がとても素敵な作品です。
一例として「色」の表現を挙げると、孤児院のテーマカラーであり様々な場面で登場する翠色、オフィーリアの髪の銀色、そして精霊力で具現される金色の文字などなど、折に触れて色彩豊かな描写がなされます。
物語序盤、オフィーリアが暗い広間で魔法の金文字を明かりにして文字解読を試みる場面がありますが、作者さんの端々の描写が鮮やかなおかげで、頭の中にそのシーンの画がくっきりと浮かんでくるんですよね。仄かな光に照らされる銀髪のオフィーリアと壁の文字、そしてその周辺の暗闇が。
これって文章だからこそ表現できる情景なんだと思います。マンガや映像だと確かにイメージは伝わりやすいとは思うんですが、細部まで見えてしまうせいで焦点がばらけてしまって、活字が頭の中に直接描き出す鮮烈な映像には及ばないのではないでしょうか。
ただし、それは作者さんの筆力があってこそ。本作のように、読んでいて自然とイメージが湧いてくる作品にはなかなか得難く、出会えた時の喜びはひとしおです!
キャラ良し、ストーリー良し、世界観も素敵と、ぜひ多くの方に読んでもらいたい作品です。
オフィーリアがもっとたくさんの未解読文字に出会えますように!
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