年度はじめの異動と引っ越しで間が空いてしまいました。またぼちぼちとレビューを再開したいと思います。
小春さんの作品、『追放されてきた実は強かった系主人公に幼馴染を奪われギルドを追放された俺は最低最悪な特殊条件をクリアし覚醒する』 をレビューします。
作品の概要とおすすめポイントはこちら!
- 全てを失ったことをきっかけに特別なスキルに目覚めた主人公が、今まで歩んできた人生を清算して、新たな一歩を踏み出そうとする物語
- 人の心の仄暗い部分に焦点をあてて紡がれる重厚なストーリー。スキルをテーマとしたファンタジー作品だが、心の在り方は現実でも同じではないだろうか。味わい深い作品をお探しの方におすすめ!
ファンタジーを舞台に人間の心を鋭く描き出す作品
小春さんが「カクヨム」で掲載されている小説です。21年2月に投稿を開始され、4月に前編が完了しました。前、中、後編の3部構成を予定されているとのこと、これからも楽しみな作品です。
舞台は保有スキルのランクによって人生が大きく左右される世界。主人公ジークの持つ鑑定は最低ランクのスキルですが、幼馴染で恋人のシルクやギルドの仲間たちとともに、貧しくも幸せな毎日を過ごしていました。ところが、ある日ギルドにやってきたSランクスキル持ちにより日常が狂いはじめます。シルクを奪われ、ギルドという居場所も失ったジークは失意のなかで未知のスキルに開眼しますが…
ストーリーの設定自体は典型的な「ざまぁ」ものであり、王道展開であればゲットしたスキルでひたすら無双して古巣を見返して気持ちよくなるところですが、本作はストーリーの深みが桁ちがいでした。得られたスキルは軽々しく扱えるようなものではなく、スキルによる縁で得られた仲間の力を借りつつ、ジークは心で泣きながら古巣での今までの人生にけじめをつけていくことになります。
人の心の掘り下げ方がとにかくもの凄く、主人公のジークはもちろんのこと、幼馴染もSランク持ちも他の登場人物についても、明るい面も暗い面もひっくるめて描かれています。鋭くも豊かな心理描写は「ネット小説」の枠を大きく超えており、現実の人間関係にも当てはまるレベルでしょう。自分も本作を読み進める中で、過去の大きな別れと仄かな切なさを思い出して少し感傷的になってしまいました。
世界観や文章力も含めて素晴らしいクオリティで仕上げられた作品であり、ぜひ多くの方に読んで頂きたいです。おすすめです!
おすすめ度
前半終了、31話時点(2021年4月)
★★★★★(星5つ、殿堂入り!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
あらすじ
スキルランクの高さ、それは人生の全てに影響する。
そんな世界で最低ランクスキル保持者のジークは、幼馴染のシルクと平凡ながら穏やかな日々を過ごしていた。
当たり前の毎日を送るジークたちの前に他ギルドを『追放されてきた』というマサハルが現れる。
マサハルの登場によってジークの生活も人間関係も全てが変わり始めてしまう。
「カクヨム」本作ページより引用
現実にも通用する心理描写の深さ
人の心の動きの描き方がとても素晴らしい作品です。
本作の世界では一生に1つだけのスキルしか与えられず、どのようなスキルを得られるかで人生が決まってしまいます。主人公のジークが得たのは最低ランクの鑑定スキル、「どんなスキルでも役立つ場面はある」との建前から表立って侮辱されることはありませんが、日常の端々で無言の嘲りに囲まれています。逆に、高ランクスキルに恵まれれば人生は勝ち組確定であり、無意識に他者を見下す気持ちが芽生えます。
これはスキルを「お金」や「家柄」などに置き換えれば現実世界でも全く一緒で、人類皆平等という建前のもとで暮らしている自分たちと何ら変わることはありません。「スキル」というファンタジーを緩衝材とすることで、現実世界を舞台にした小説よりも、より生々しく人の心を表現することに成功しています。
ジークの暮らす街の描き方も大好きです。仲間たちと楽しく暮らしていた街、追い出されて部外者として見る街、そして新しい世界へ旅立つ前の街、全てが同じ風景のはずなのにジークの心の在り方によって全く異なって見えてくる様子がありありと綴られています。引っ越しが多くて、今まで様々な街に住んできた自分にとって深く刺さる描写でした。
スキルの存在する意味を問われるストーリー
ネット小説では定番となっている「スキル」。どれだけ捻った設定のスキルを思いつくことができるかどうかが、作品の人気を左右する大事な要素になっているようにも感じます。
一般的な作品では「神に与えられるもの」、「恩恵」などとして特に説明されることなく当たり前存在していることの多いスキルですが、本作ではスキルの存在についても意味が問われることになりそうです。ジークが全てを失ったことで覚醒したスキルも「チートスキル」としてありがちな効果ですが、単純にチートなだけではなくて物語の中核と深く繋がっているような雰囲気が。。。
個人的な性癖として、スキルのような世界観の大前提の存在がストーリー中でひっくり返されるのが大好物だったりします。スキル繋がりでは「蜘蛛ですが何か」の「禁忌」、古いところでは「ゼノギアス」の「セーブポイント」がよい例でしょうか。
スキルの真の意味に迫っていくであろう今後の展開から目が離せません!
このクオリティの作品がネットで読めることに感謝です。
ファンタジーやバトルをしっかり楽しみつつも色々と考えさせてくれる作品、多くの方に読んで頂きたいです!
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