ぎゅっと要約
- 異世界転生先で無力さに絶望した少年が自分の力で成り上がる本格ファンタジー
- チートなしの異世界転生に興味のある人、熱い戦闘シーンが好物な人におすすめ
- 掲載中、小説1冊分
転生チートで無双できるといつから錯覚していた?
「ノベルアップ+」に連載中の朝食ダンゴさんの作品です。作者さんは同サイトに短編や長編を多数投稿されています。今回紹介する『異世界転移で無双したいっ!』は長編作品で、2020年5月の時点にて73話まで掲載されています。
まず注意が必要な点ですが、あくまで「無双したいっ」だけであって全然無双できません。何を隠そう、サイト冒頭の作者さんコメントが『チートなし。少年よ、絶望に染まれ』です。王道である最強スキルで俺TUEEEの、まさに対極を進む作品となっていますね。注意しないと書き古された異世界ファンタジー成り上がりものとなりかねない設定ですが、転生者としての特徴を主人公に持たせることでしっかりとオリジナリティーが確立されていると思います。
73話完了時点で、だいたい小説1冊弱くらいの文章量です。基本的にどっしりとした文章で、物語の中心となる戦闘シーンでは熱い展開が続きます。ただ一方でほんわかする場面も随所に出てくるので、重厚な物語にも関わらず読み進めやすいです。自分は1晩で読み切ってしまいました。
ありがちな転生チートものを読み飽きた方にぜひおすすめしたい作品です。
オススメ度とおすすめしたい人
おすすめ度(72話終了時点)
★★★★(おすすめ!)
★5つで満点。かぴばーの個人的好みに基づいたスコアです。
おすすめしたい人
王道の転生俺TUEEEに飽き飽きした人、重厚なファンタジー作品が好きな人、燃えるバトル展開がたまらない人、成り上がりものが好物な人、ヘイスちゃん本当に尊い
あらすじ
伊勢カイトは交通事故で命を落とす。気が付くと一面が灰色の神殿におり、目の前には絶世の美少女の女神。異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典について尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。そして暗転する視界。
カイトは気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和可能な護符を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
主な登場人物
- カイト
主人公の16歳男子。異世界の現実に一度は絶望するも、ある記憶をきっかけとして、この世界で生きる意味を見出し始める。自らの魔力を持たないため、他者の魔力の影響を非常に強く受ける特殊体質である。 - クディカ
メック・アデケー王国の女性将校。王国七将軍の一人で白将軍の異名を持つ実力者である。カイトに対して当初は疑念の目を向けるも、強敵に立ち向かい命を賭して味方の兵士を助けた姿を見て信頼を寄せる。公務中は固いキャラだが、日常では女性らしい一面も見せる。 - リーティア
王国の女性政務官であり、クディカの親友かつ戦友。高い魔法の素養を持ち、上位魔族とも対等に戦える実力を持つ。カイトの特殊体質を気にかけて対策を探している。お姉さんキャラ。クディカとはよいコンビ。
異世界転生の期待から一転、絶望のどん底へ
異世界転生や異世界転生といったジャンルは昔からあり、古くは『ナルニア国物語』まで遡ることができます。ただ、その裾野が非常に大きく広がったのは2010年頃からの「小説家になろう」の流行からだと思います。
異世界に赴く際に、圧倒的な能力(いわゆるチート能力)を手に入れて、その力で無双するというのがテンプレですね。安心して気持ちよく読み進めることが出来る上、日常生活では得られないカタルシスを感じることができることから、多くの物語が人気を博してマンガ化やアニメ化までされました。かくいう自分も大好物です。
そんな異世界転生のテンプレの真逆をいくのが本作品です。主人公のカイトはテンプレの異世界転生を期待するも、特別な能力もスキルも武器も無いまま、「マナ耐性が無いせいで息をすることが命に係わる」というハンデまで背負って異世界に降り立つこととなります。
この期待から絶望への変化を、作者さんは各話タイトルで上手く表現をされており、冒頭は「いざ異世界へ!」や「なんとかなるさ!」などのビックリマーク付きの少年漫画的なタイトルが並びますが、ある時点から一転「砕け散る幻想」、「敗走」といったネガティブ一色に変わります。
これは小話のタイトルがずらりと並ぶWeb小説ならではの手法ですよね。作品によってスタイルがあり、タイトルに統一性を持たせていたり、韻をふんでいたり、伏線が隠されていたりと、作者さんの技巧に感心させられます。
立ち上がるカイトと物語の舞台を彩る女性陣
絶望に沈むカイトが思い出したのは、妹 海璃との現世での記憶でした。病気のため自らが余命いくばくもないにも関わらず、周囲の人々を励まし勇気づけていた海璃でしたが、その理由を問うたカイトに対して「自分が一番辛い時には、誰かの為に戦うんだよ」と答えたのでした。この思い出がカイトを目覚めさせ、逃げ遅れた兵士のため、ひいては、魔族に苦しむ人類のために立ち上がることになります。
この作品の特徴として、ストーリーを織り成す女性陣が非常に魅力的なことが挙げられます。海璃や灰の女神といった物語のキーとなるキャラに加え、カイトと共に戦うクディカ、リーティア、ヘイズ、更には魔族側のソーニャに至るまで、全員が魅力的な個性と背景をもって描かれています。シリアスな展開に隠れて気づきにくいですが、実はカイト君は無意識ハーレム系主人公なのかも(笑)
これから明らかとなる転生者としての役割
現在、物語はおそらく中盤あたり。今後、本格的にはじまる人類と魔族の戦いの中で、カイトがどのように成長していくのか目が離せません。
今後の見どころとなるのは、カイトが「転生者」としてどのように活躍するかだと思います。「戦いの中で仲間との友情の力で成長し、云々」だけではただの成り上がりもので、転生者である必要性がありません。
能力面では「魔力を持たない特殊体質」がキーとなるのは間違いないですね。一方で、転生者だからこそ持つ記憶や繋がりも重要になってきそうです。海璃に関する現世~異世界の記憶は勿論ですが、幕間のストーリーから推察するにカイトは灰の女神とも浅からぬ因縁を持っているようで、これからどのように本編に関わってくるのかとても楽しみです。
重厚なストーリーを味わいつつ、色鮮やかな人間模様や緻密な世界設定も楽しめそうな本作。テンプレ異世界ものを読み飽きたあなたにぜひおすすめします。